「リンドウの花を君に」IF編

□幸福の中のある受難(後編)
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《もしもヒルメスが銀仮面卿にならなかったら》
・雷が苦手な夢主をヒルメスが慰める話
・裏話です(R-18注意)


* * *


 装飾タイルが敷かれた広めの浴室の奥に設けられているのは、磨かれた大理石の浴槽である。こじんまりとした屋敷に似つかわしくないほど立派な浴室だが、貴族の屋敷のものとしてはむしろ一般的な大きさである。
 もんもんと湯気が立ち込め、石鹸と湯に落とす香油の香りが甘く鼻腔をくすぐる。長湯を好む夫婦のためにと下人がたっぷりのお湯を張っていった浴槽の中で、ヒルメスとアイラは冷えた体を温めていた。
 湯が滴り、揺れる水音のほかに、時折女の控え目な喘ぎ声が上がる。
 身を溶かす熱を孕んだ互いの吐息が、浴室に淫らに反響していく。
 水気を含んで体にまとわりつく自身の服を乱暴に脱ぎ捨て、ついでに妻のそれも脱がしたヒルメスは、頬だけでなく体全体をほんのり染めた円やかな裸体を再度抱き上げて浴室に入った。
 無論、湯を浴びるためでなく、俗に言ういそしむためである。
 雷に怯えて夫に縋り付く妻を見させられて、下心のわかない男はいないだろう。ヒルメスもしかりで、鉄壁の理性をもって顔には出さないものの、煽られた自身はもう随分前から欲を求めていた。
「雷など最早気にならないようだな」
 濃厚な口づけの合間を縫って、ヒルメスが意地悪げに問いかける。
 しかし返ってくるのは喘ぎ声ばかりで、目尻に恐怖からではない涙を溜めたアイラは、必死になって首を振っている。
 彼女の秘部を好き勝手に蹂躙するヒルメスの長い指は、容赦のかけらもなくアイラの理性を崩し、欲を引き出していく。
 次第にアイラの体が強張り、縋り付いていたヒルメスの肩口を両手で掴んで引き寄せた。
「ふ、…ひぁ、ぁ…っ、」
 体の蓄積されていく快感を必死に受け止めようとして、無意識にぎゅっと閉じた目から、すうと伝い落ちた涙を唇ですくい取ったヒルメスは、愛撫の手を止めないまま、唇を白い首筋に伝わせて無防備に晒されたそこに印を残した。
 それから、仕留めた獲物にするように柔く歯を立てる。傷つけるつもりはないが、その行為に何とも言えない独占欲を味わった。
「ぁあ、…っ、も、…あぁ、っあ!!」
「好きなだけ味わえ」
 しっかりと抱き込んだアイラの体が腕の中で仰け反り、やがて糾弾する。浴槽の湯がその動きに合わせて大きな波紋を立たせた。
 ぐったりと荒い息を吐き、顔をヒルメスの肩口につけたアイラは余韻に酔う。今宵与えられた絶頂はもう二度目だった。
 体が火照り、その分体力が削られていくが、夫はまだまだ解放してくれそうにない。
 自分だけが乱れさせられている気がした途端に恨めしくなり、思わず目の前の鎖骨に歯を立てる。かじかじと噛みつきながら、ぎゅっと首に回した手に力を込めれば、頭上で熱い吐息がこぼれる気配がした。
「いつも私だけ…ずるいわ」
「そうか? 俺は満足しているが」
 そのすました返答が気に食わないと言わんばかりに、むっとした表情をしたアイラは普段は滅多にしないことをしてやろうという気持ちになる。
 絶対見返してやる。いつも余裕そうな夫をたまには夢中にさせたい、と意気込んで、アイラは行動に出た。
 そんな妻の心情を分かっているのか、どうなのか、余裕そうなヒルメスの方も内心はそうでもない。
 無論、妻の痴態に煽られっぱなしであるし、まさか聖人君子であるはずもない。けれど人一倍持ち合わせている彼の自尊心が、表立ってそう見せないだけであった。
 不機嫌になった妻を尻目にそろそろ終わらせてやるか、膝の上に妻を乗せた状態であったヒルメスが体を起こそうとした瞬間、思いがけず肩を押さえつけられて、浮かしかけた体を浴槽の中に引き戻される。
 さすがのヒルメスも咄嗟のことに驚いて、されるがまま、わずかに目を見張って固まった。
 一方、夫の膝の上に乗ったまま両脇に膝をつき、たくましい両肩に置いた手で自身を支えたアイラは、驚いた様子のヒルメスの顔を見下ろして魅惑的に頬笑む。
 してやったりという勝気なその笑みに、ヒルメスはお転婆娘だった頃の少女の面影を見て、目を細める。
 可愛らしい誘いに乗ってやってもいいか。たまには好き勝手にされることも悪くない、とヒルメスはピタリと動きを止めて妻の行動を見守ることに決めた。
「…、……ん、っ、」
 そろりそろり、恐る恐るといった様子で、アイラがヒルメスの自身を自分の胎内へと導いていく。この時点ですでに膝が震えている妻の様子に、ヒルメスは顔に出さずに喉を鳴らした。
 さて、反抗心と強情はどこまで持つのやら。しかし、眉根をきゅっと寄せて苦しそうにしながらも、耐えきれない快感に唇をきゅっと引き結んだ妻の痴態を眺めるのも、実に有意義である。
「そんなにゆっくりでは、終わるものも終わらんぞ」
 ヒルメスの冷やかしに対し、むっとした表情を浮かべて悔しげに睨むアイラは、残り半分ほどの挿入を前に尻込みしていた。いつもより深くて熱い。
 大口叩いて思い切ったものの、こんなはしたない真似をすることも、増して自分から受け入れることも初めてなのだ。
 足は震えるし、受け入れた部分は熱くて、じくりじわりとした重い快感を孕んでいる。
「ヒル、メス…っ」
 どうにも進めることができなくなって怖気づいたアイラは、無意識に縋るようにその名を呼んだ。
 苦しくて、切なくて、犯される熱にどうにかなってしまいそうだ。
「どうした、もうしまいか」
 意地の悪い夫の指が、妻の腰をつととなぞる。びくりと体を震わせたアイラは気を抜けば落ちそうになる不安定な体を必死で留めていた。
「もう、ぁ…! や、っぁあ、」
 その涙声を聞いてヒルメスは腰をつかみ直すと、もう一方の手をアイラの背中に回して支え、その体を引き寄せて一気に自身を沈める。狭い胎内を深く犯す快楽に、ヒルメスは奥歯を噛み締めて声を殺した。
「ひぃ、ぁああっ!!」
 あられもない嬌声が浴室に反響する。誰もいないとわかっていても羞恥を感じて、アイラは首を左右に振った。しかしヒルメスの方はといえば、そんなことには無頓着である。
 仰け反って、離れていこうとする体を抱きとめると容赦なく最奥を犯し始める。
 散々煽られたのだ、いい加減限界に近かった。
「ぁ、ああ、…っ、ゃ、あ!」
「お前はもう少し慣れるべきだな」
 快楽に初心でいつまでも恥じらう妻も悪くはないが、自分の上で自ら乱れる妻も見てみたいとヒルメスは思った。
 下から突き上げるようにしてヒルメスが動くと、アイラの体も浮力を借りて上下に揺れ動く。普段にも増して、強い快感が双方の体をじっとりと支配していた。
「ぃ、ぁあ、ふっ、ぁあああ!!」
 止めだと言わんばかりに、ヒルメスの唇がアイラのそれを塞ぐ。噛み合うような、絡み合うような濃厚な交合で呼吸すら奪いながら、ヒルメスはより深く強く自身を最奥へと叩きつけた。
 先に達したアイラを追ってヒルメスも吐精すると、力が抜けて寄りかかってきた軽い肢体をかき抱く。妻の全てを支配できるこの瞬間が、ヒルメスにとっての至福の時だった。
「……、やっぱり、ずるい…」
 息も絶え絶えに負け惜しみを吐くと、ヒルメスはくつくつと喉を鳴らしてより強くアイラの体を抱きしめて、濡れて背中に張り付いた亜麻色の髪を優しい手つきで整えていく。
 アイラはその心地よい手つきに、それまでの不機嫌さも忘れて微睡んだ。



幸福の中のある受難(後編)




【あとがき】
 リクエスト頂いてないけど、書いちゃいました(笑)
 なんかもう、雷?何それ状態です(笑)
 今回は夢主がちょっとだけ積極的。でもあえなく完敗してます。
 仕方ないです。ヒルメスにはかないません。
 久々の裏夢、楽しんで頂ければ幸いです。


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