「リンドウの花を君に」IF編

□夜の帳にかたわれを幸す
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《ヒルメスが銀仮面卿にならなかったら》
・子育てが一段落ついた頃、久しぶりの夜を過ごす二人の話(R-18注意)
・初っ端から濃厚です。苦手な方は閲覧注意。自己責任で読んでください
・閲覧後の苦情はなしでお願い致しますm(_ _)m 管理人がへこみますので…


* * *


「ひる、――っ、ぁ、ああっ!」
 官能が色濃くにじみ出る甘美なその声は、理性を飲み込んで瞬く間に全身に広がり浸透していく。
 結い紐を解かれて無尽に遊ぶ亜麻色の髪がきめ細やかな裸体を彩る。
 時折ぼんやりと宙に向けられる翡翠色の瞳は、いくつもの涙を流してきらきらと輝いていた。
 ヒルメスの隠しもしない情欲が一層の熱を帯び、最奥のわだかまりが疼いた。
 自身が固く組み敷き、深く貫いたやわい体は愛撫するたび、息も絶え絶えに悶え、久々の快楽を必死に受け入れて喘ぐ。
「……つらいか」
 妻の体を蹂躙する動きをわずかに弱め、苦しげに肩を上下させる細い体をいたわって、ヒルメスは熱を持った耳朶に囁く。
「へい、き……っ、ぁ、あ、つづ、けて」
 乾いた喉の痛みを堪えて必死に言葉を紡ぐ。
 疲労から意識を朦朧とさせながらも、それでもアイラは夫の望むままに体を開こうとした。
 その様子にヒルメスは一瞬罪悪感から眉をひそめたものの、すぐにまた劣情に捕らわれて欲に流される。
 自身の歯止めが効かなくなっていることを頭で理解できても、それを止めるすべがない。
 どうにもまだ、欲の波は引きそうになかった。

 こうして妻の柔肌に触れるのも、自身の欲を解放するのも久方ぶりである。
 身ごもっている間、悪阻に苦しみ中々体調の整わない妻に自身の欲を押し付ける気はなかったし、子が生まれてからも子育てに邁進して疲労している様子を見れば、安易に手は出せない。
 それでもヒルメスは幸せそうに微笑む妻を見守って、抱きしめて眠るだけで満足していたのだ。
 だがようやく赤子の夜泣きも減ってきた今、無意識に抑えていたものが堰を切って溢れ出そうとしていた。

 逃げる腰をつかんで引き寄せるのと同時に、最奥をえぐるように突き上げる。
 悲鳴に近い声が上がる。ぴったりと交わる部分をきつく締め付けられて、ヒルメスもまた奥歯を噛み締めた。
「ん、ぁ、あ! ふ、うぅ、あっ、」
 アイラの指が枕元の敷布をつかんでぎゅっと爪を立てる。
 力を加えすぎて血の気を無くしたその手をそっと解かせて自身の肩口を掴ませると、ヒルメスは浮き上がる背中と寝台の間に腕を入れて細い体を持ち上げた。
 繋がりが一層深くなると、とろけ切った内側が膨張し切ったヒルメス自身を必死に受け入れようと健気に収縮を繰り返した。
「ひ、っ、―――っ!」
 声にならない声を上げて、アイラが目を固く瞑って体を震わせる。肩口に鋭い痛みを感じてヒルメスが目を向けると、血をにじませた爪痕が幾筋もの線を作っていた。
 それに気づいたアイラが、自身が傷ついたように目を潤ませて首を振るのをなだめて抱きすくめる。
 アイラには殺生なことだが、未だ律動を止めてやるわけにはいかない。だから、爪を立てられるくらいは甘んじて受け入れた。
「あぁ、っ、ふっ、ぁあ」
 眼前に晒された白い首筋を甘噛みして、鎖骨までをねっとりと舐め上げる。
 自身をからめ取ろうと吸い付いてくる狭い中を奥深くまで割り入って激しく動き続ける。
 最奥の壁に自身を押し付けるようにしながら、抱きあげた体を前後に揺さぶった。
「ぅ、ああ、も、ぅ、ぃ――っ、」
「―――ぅ、くっ」
 全てを搾り取るような動きに抗って、ヒルメスが自身を抜くと同時に互いに達する。自身の出したものが薄い下腹を汚して、その熱さにもアイラは体を敏感に震わせた。
 くたり、と散々に貪った体がかし揺らいでヒルメスの腕の中に収まる。
 もう指一本動かすことも億劫な疲労感のなか、アイラは自分がつけた爪痕を癒したくて、そこに舌を這わせた。
「こら、煽るな。……もう止めてほしいだろう?」
 何かを堪えるようにしながら、幼子に諭す声音でヒルメスが言う。
「……ヒルメスは、まだ、したい……?」
 舌足らずな声が、冷ましたはずの体をまた疼かせようとする。亜麻色の髪の絡まりをほどくことに集中しながら、ヒルメスは大きく息を吐きだした。
「そういうことを言うな。十分無体に付き合わせた。すまん……体は大事ないか?」
 平気なはずがないと知っていながらつい聞いてしまうのは、己の罪悪感を紛らわすためだ。こういう聞き方は狡いなと思いながらも、いつも優しい妻に甘えてしまう。
「ちょっとだけ疲れたけれど、だいじょうぶ。だって、ヒルメスは優しかったもの」
「……おい」
「ヒルメス、大好きよ」
 夫の膝の上に乗せられたまま抱き合った状態で、肩口にすり寄ったアイラは薄く微笑む。
 汗で湿った黒髪が首すじに張り付いているのを、指先で払ってあげながら、アイラは心地よいぬくもりを堪能した。
 無体だなんて嘘ばっかりと、アイラは思う。行為の間ずっと夫はいたわる目をしていたし、中に出さないでくれたのも、子を産んだばかりの体を案じているからだろう。
「ヒルメス、いっぱい我慢させてしまって、ごめんなさい」
「どうした、急に改まって」
「だって貴方はいつだって優しいから。私を大事にしてくれるから」
「たった今、無理をさせたが?」
「でも、嬉しかったもの。私だって貴方に触れたいと思っていたから」
「――っ、」
 ヒルメスが息を飲む。腰に回された手に力がこもると、アイラは愛おしそうにした。
「お前は――、いや、何でもない」
「まだ、足りない?」
「……」
 本音を言えば、体の熱は未だ冷めやらない。けれど辛そうにしている妻をこれ以上、付き合わせるのも忍びないし、それはヒルメスの本意ではない。
 だから返事はどちらとも言いかねるのである。
 ところが、言い淀んで口ごもったヒルメスの耳に思いがけない言葉が飛び込んできた。
「わたしは、足りない……」
 目を見張って妻の顔を覗き込む。疲労を浮かばせた妻はそれでも、悪戯が成功した子供のように声を立てて笑っていた。
「ねえもっと愛して、ヒルメス」
「……いいのか? 途中で泣いたとて、止めてやれぬぞ」
 からかうように言ったのに、妻の口からは真摯な言葉が返ってきた。
「ええ、いいの……もっと、もっと貴方がほしいの――…」
 心が、体が沸騰したように熱くなる。ヒルメスは息をつめて、唇を歓喜に震わせた。
 それから完敗だと言わんばかりに肩を竦めて、上気した頬を手のひらで包み込む。
 顔色はあまり良くないし、本当はここで休ませてやるべきなのも重々理解している。
 けれど散々に煽られて、愛しさに狂わされた欲はもう引き下がれないところまできてしまっていた。
「お前が、足りぬ……足りぬのだ、アイラ……」
 夫の端正な顔が間近に迫るとアイラはゆっくりと目を閉じる。ヒルメスは色づいた小さな唇に優しく口付けてから、柔らかく囁いた。
「次は、優しくしてやろう――…」
 アイラの背中がそっと寝台へと沈み込んだ。



夜の帳にかたわれを幸す




【あとがき】
 とーーっても久しぶりにR話を書きました。
 書きながら恥ずかしすぎて、何度も挫折しかけました。限界です……m(_ _)m

 ご無沙汰で余裕のないヒルメスと、いっぱい我慢させてしまった夫を必死に受け入れる夢主が書きたい!と衝動的に思いました。
 今回は夢主のほうも夫不足な感じです。
 あ〜恥ずかしい。アンケートで裏が断トツ一位なのでたまには書かなきゃ!と意味もなく使命感に燃えました。
 お目汚しで申し訳ないですが、少しでも楽しんで頂けたら本望です。

 余談ですが、タイトルは「幸す」と書いて「こう・す」と読みます。ちょっと古い言葉で「寵愛する」という意味です。
 「幸」をつけてタイトルを考えるのにも限界が近づいてきた気がします……が、がんばります。


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