「リンドウの花を君に」短編

□キスの場所で22のお題
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・《キスの場所で22のお題》に基づいた拍手小話の再録集
・IF編『幸』シリーズ設定中心
・順不同の気まぐれ更新

※お題は[http://lomendil.maiougi.com/kiss-title.html]から引用させて頂きました

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【お題一覧】
●印は再録済のもの。○は現拍手小話

01、髪 (思慕)
02、額 (祝福)●
03、瞼 (憧憬)
04、耳 (誘惑)●
05、鼻梁 (愛玩)
06、頬 (親愛)
07、唇 (愛情)
08、喉 (欲求)●
09、首筋 (執着)●
10、背中 (確認)
11、胸 (所有)
12、腕 (恋慕)
13、手首 (欲望)●
14、手の甲 (敬愛)
15、掌 (懇願)
16、指先 (賞賛)●
17、腹 (回帰)
18、腰 (束縛)
19、腿 (支配)
20、脛 (服従)
21、足の甲 (隷属)
22、爪先 (崇拝)
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●耳+首筋(2016/01/13再録)

 長椅子に腰を下ろしたヒルメスの背後に立ち、中腰の体勢になって襟足の長い髪を梳きとかす。
 すぐに絡まってしまう自分の亜麻色の髪とは違って、指先に触れる癖のない黒髪はさらりとほどけて重さを感じない。
 そうして何度か手を上下させていると、ふと普段は髪に隠れて見えない首筋が目に入った。
 どくん。心臓が早鐘を打って、意味もなく頬が熱くなる。
 男らしく筋張っているのに、日に焼けていない白い肌が色っぽい。
 ヒルメスが身動きするたびにわずかに浮き出る骨の形がやけに生々しく感じた。
 思わず手を止めて、まじまじとそこを見つめる。
「どうした?」
「!」
 怪訝そうなヒルメスの声で我に返り、何でもないと口早に言うと慌てて眼帯を手に取った。
 眼帯の位置を確かめながら、髪を巻き込まないように注意しながら革紐を結わえると、最後にもう一度だけ髪を梳き整える。
 一連の作業を終えて手を放そうとすると、やっぱり名残惜しくなって、少しだけ逡巡しながらもおずおずと口を開いた。
「ヒルメス様、少しじっとしていて下さいませんか?」
「? ああ、わかった」
 何のためらいも警戒心もなくヒルメスが頷くと、思い切って行動に移した。
 せっかく整えた髪を襟足から優しくかき上げて、露わになった首筋にそっと口づけを落とす。
「―――……、」
 軽いリップ音を立てて吸い付けば、ヒルメスは肩をびくりと跳ねさせて息を飲んだ。
 何度か軽い口づけをして、最後に耳飾りが揺れる耳朶にも唇を触れ合わせる。
 慣れないことをしている自覚はあったが満足して笑みを浮かべると、大人しく口づけを受けていたヒルメスが肩越しに振り返った。
「誘っているのか?」
 そのわずかに赤らんだ目元にこの上ない喜びを覚える。ヒルメスの余裕のない顔は初めてみた。
 また新しい彼の一面が見られたことが嬉しくて微笑み返せば、無言で抱き寄せられて、唇に軽い衝撃が訪れる。
 自分が施したものとは比べものにならないその熱い口づけに、私はそっと瞳を閉じた。


【あとがき】
 首筋への口づけは「執着」、耳朶への口付けは「誘惑」を意味するそうです。
 今回は夢主が積極的。ヒルメスの色気にやられてます。
 といいつつ、この後の流れはいつも通りヒルメスに持っていかれそうですが(笑)。
 アニメのヒルメスの、襟足の髪の長さがズルいと思うんです←
 チラ見えする白い首筋がエロいと思うんです←




●喉(2016/03/06再録)

「誘っているのか?」
 低くかすれたその声に、無意識に体が震えて最奥が疼く。思わず喉を鳴らしてヒルメスを見ると、刹那、熱い視線が注がれた後、唇を塞がれた。
「ん、っ……、――ふ、――、……」
 息もできないほど激しく貪られて、生理的な涙が浮かぶ。
 頬に伝う雫を拭っていく手はひどく優しいのに、口づけと体を弄る手がそれを裏切っている。
 その矛盾に、胸が熱くなった。
 口づけを強いられたまま引き寄せられて、体勢を入れ替えさせられ、背中が長椅子に沈み込むと、ヒルメスの体が逃がさないと言わんばかりに覆いかぶさってくる。
 それに対して本能的な危機感を抱くと同時に、言い表せない興奮も沸き起こった。
 互いに荒い息を吐きながら、鼻先が触れ合うほどの距離で見つめ合う。
「お前が誘惑してくるとは珍しい」
「そんな、つもりでは……」
「誘っているようにしか思えぬ。煽った以上は最後まで付き合え」
 もう一度、今度は貪るのではなく、ゆっくりと心を征服し、理性を陥落させるような口づけを施される。
 熱いその口づけは、いつの間にか乱された喉元にまで及び、舌を這わされると、無意識にびくりと体が震えた。
 背中に腕を入れられて、腰を持ち上げられると、自然と首筋が仰け反る。
 そうして差し出された白い喉元にヒルメスは無言で顔を伏せた。
「――ぃ、っ、――いたっ、ヒルメス…!」
 喉の薄い肌に噛みつかれる。手加減はされているだろうが、歯を立てられるのだから当然痛みを覚える。
 痛みに怯えて喉をひきつらせていると、今度は慰めるように噛まれた場所に吸い付かれた。
「お前は俺のものだ」
 むき出しの本能とも言うべきだろうか。そんな容赦のない情欲を向けられる。
「俺のものだ……」
 もう一度、ヒルメスは自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
 そうしている間も喉元への口づけは止むことなく、むしろ何かに執着するように余すところなく熱を与えられる。
 やがてもっと深いところまでその熱が浸透していくと、陥落した理性と共に夫の手に身をゆだねた。


【あとがき】
 お題形式で短文を書いていこうと思います。
 前回のはmainに再録済みです。

 基本的に夢主を甘やかすのが趣味なヒルメスが、稀に噛み癖を発揮すると俺得で嬉しいです。(←どうでもいい)
 獲物を仕留めるときの肉食獣みたいな感じで。
 何といってもヒルメスは支配者気質ですからね。
 といいつつ毎度駄文で申し訳ないです(笑)




●手首+指先(2016/06/28再録)

 東の空から日が昇り、心地のよい朝の風が開放された窓から入り込んでくる。
 そんなすがすがしいギランの早朝。
 肌触りのいい毛布の中でゆるゆると目を覚まし、意識が覚醒するまでの間、かたわらの体温の高い体に身を寄せる。
 毎朝、こうして無意識に彼の存在を確かめるのが癖である。
 ぬくもりを求めてすり寄れば、しっかりと、けれどもやわらかく抱きしめ返される。
 基本的にヒルメスのほうが朝に強い。
 自分が目覚めるころにはすでに起きていて、しかしベッドから出ずにこちらの寝顔を観察していることが多い。
 今朝も、そうらしい。頭の下に敷かれたヒルメスの腕に頬ずりすると、応じるようにこめかみにやさしい衝撃が訪れた。
 それから胸元で束ねていた手をそっとすくい上げられる。
 自分の手首から、ちゅ、と場にそぐわない間の抜けた音がした。
 続けざまに、二度、三度くり返される。手首に触れる熱い感触。昨夜を思い起こさせる、彼の甘いしぐさ。
 未だ夢心地で、ぼんやりしている最中とはいえ、そう何度も口づけられると、さすがに羞恥が沸き起こってくる。
 それも、手首にばかり。
 自分にとって、手首は脈を計る場所という認識が強い。
 他人のそこに触れる機会は多いが、触れられることはそうない。今のように、官能的な触れ方は余計にない。
 その落差に、なにやら複雑な気分になる。
 眠たさよりも羞恥が先行し、完全に覚醒させられた。唇を震わせて吐息をこぼす。
「起きたか」
 手首に触れたままの唇からこぼれ落ちる、気だるげな声。
 つかまれたままの自身の手を離してほしくて、やんわりと手前に引き戻そうとするものの、束縛は緩まらない。
 仕方なく彼の思うままに、身をゆだねることにした。
「おはよう、ヒルメス」
「ああ……おはよう」
 相変わらず手首に執着したままのヒルメスが答える。
 息がかかる部分が、焼けるように熱い。
 思わず指先をびくりと跳ねさせると、彼は満悦そうな笑みを浮かべた。
 ヒルメスがこちらに見せつけるようにわざとゆっくりと、細い手首から腕にかけて唇をすべらせる。
 心臓が高鳴り、無意識に、ごくりと息を呑んだ。
「っ、――ヒルメス、ゃ、」
「なんだ?」
「! っ、わかってて、やってるでしょう!」
「さあ? なんのことだ?」
 悪びれた様子もない、したたかな表情。
 手首の薄い皮膚を舐め、浮き出た血管をたどった唇が指先に至り、そこを丁寧に愛撫する。
 やっと離れたと思った次の瞬間には、大きな口にぱくっと咥え込まれていた。
「ヒルメス!」
 これにはさすがに抵抗した。間違っても、朝からするような悪戯ではない。
 耳元で囁くように、名を呼ばれる。そのかすれた低い声音には、隠しきれない欲がにじんでいた。
 言い知れない刺激に涙目になりながら、自身の奥深くを疼かせる衝動と、お互いの肌の熱さを感じた。
 流されてしまう。
 そんな予感がして、ヒルメスの胸の中にすがり付いた。


【あとがき】
 《キスの場所で22のお題》シリーズ、今回は手首と指先です。手首が欲望、指先が称賛。
 妄想しながら書くと、必要以上にヒルメスがエロくなりました(笑)
 朝から至近距離でヒルメスの色気に当てられる夢主。災難ですね。心臓に悪そう。




●額(2016/08/06再録)

 結婚してからずっと、朝は決まってヒルメスの腕の中で目が覚める。
 厚い胸板に頬をくっつけて眠っている日も、背中からすっぽりと包まれて眠っている日も、ヒルメスの長い腕が私の体に絡みつき、離さないと言わんばかりに固く抱き寄せられている。
 たまにふと、夜半に目覚めて、その束縛から抜け出そうとすると、ヒルメスはすぐに目を覚ましてしまう。
 元々、眠りは浅いのだと彼は言っていた。気配に敏く、熟睡は滅多にしない。寝ているときでも周囲への警戒を怠らない。
 そう話す彼の、少し物悲しげな表情がはっきりと記憶に残っている。
 彼はそれ以上何も語らなかったけれど、私は気付いた。
 例えば、小さな子がお気に入りの人形を片時も手放さないように。
 無くすことを恐れて、目の届く範囲に置いておきたい。ずっと肌に離さず持っていたい。
 ――つまりは、そうなのだ。

 ある日の朝も、あたたかい腕の中で、いつもと同じように目が覚めた。
「ねえ、ヒルメス。私は貴方のそばからいなくなったりしないわ」
 寝起きの気だるさの中、私はふいにそう口にした。束縛は緩まない。
 私の体を囲う腕に手をのせて、ぽん、ぽん、と柔らかく叩きながら、私は彼と視線を合わせた。
 吸い込まれるような深い色味の瞳。寝起きの無防備さと、微睡みを抜けきらないおっくうそうな瞼が色っぽい。
「だから、毎日毎日抱きしめていなくていいのよ、って言おうとしたんだけど……」
 口端にとろけるような微笑をのせる、幸せそうな彼の顔を見て、違う言葉を思いついた。
「貴方の腕のなかは安心するのよ、とってもね。私にとって世界で一番、安らげる場所で、幸せな場所……」
 虚を突かれた様子で固まったヒルメスの額に、ちゅっと甘い音を立てて口付ける。
「だから、ずっとずっと抱きしめて眠ってほしいわ」
 腰を抱く腕の束縛が強くなる。引き寄せられるのと同時に、ヒルメスの熱い口づけが呼吸を奪った。
 かすめるように数度触れ合って、焦がれるように絡み合う。
 一瞬でも離れることを惜しみ、吐息すらも呑み込んで、交じりあう。
 ひとしきり求め合った後、乱れる息をようやく落ち着けた私は静かに言う。
「嬉しいことがあった日も、悲しいことがあった日も、喧嘩をした日も――どんな日でも、こうして抱きしめて眠ってね。そうすれば、朝にはきっと幸せな気持ちで目を覚ますことができるわ」
とびっきりの笑顔を浮かべて、最愛の人を眩しく見つめる。
今朝の彼はとても満足げで、幸せそうな顔をしている。
彼がこうして穏やかに目覚められる日が、一日でも多くなってほしい。
そう思って、私は両手をゆっくりと彼の背中に回して抱き付いた。
「もちろん、私が貴方を抱きしめて眠る日があってもいいわよね?」


【あとがき】
 《キスの場所で22のお題》シリーズ、今回は額です。額へのキスは祝福の意味だそうです。

 そしてなんと、この拍手夢を更新した本日(06/28)は、アル戦夢を書き始めてちょうど一周年に当たります!
 もう一年経ったんですね〜びっくりです!
 今日までやってこれたのも、皆様からのあたたかい拍手やコメントのおかげです。本当に感謝しています。
 これからも、執筆頑張っていきますので、どうぞよろしくお願い致しますm(__)m

 アニメアル戦の続編もいよいよですね!
 一緒に盛り上がっていきましょう!


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