「リンドウの花を君に」短編

□我ら国を守りし万騎長!
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《酔った夢主が万騎長たちの目の前でヒルメスに甘える話(またか!)》
・万騎長大量出没注意(笑) ネタです。また夢主が酔っぱらってやらかしてます。
・コメントで素敵なリクエストを頂いたので、クバードとシャプールを初出ししてみました。
・万騎長たちの口調なんか可笑しい、という苦情はできればなしで。似せる努力はしました!(笑)


* * *


「ヒルメスさま〜〜!!」
「アイラ、よせ」
 舌足らずな甘えた声と共に、ぎゅっという効果音では足りないほど強い力で抱きすくめられて、ヒルメスは眉間に皺を寄せて渋面をつくった。
 みしみしと関節がゆがめられる音が聞こえてきそうなほどだ。
 目に入れても痛くないほど可愛がっていると自負する最愛の人に、これほどの腕力があったことをヒルメスは今はじめて知った。
 これでは直に絞め殺されかねない。
 背後からのしかかってくる恋人の重さが、今は兇器にしか思えない。
「退け」
 うっ血しそうなほど締め付けてくる腕をどけさせようと、口にした言葉はさすがに語尾がきつい。
 それを聞いて怒られたと取ったのか、アイラはぴたりと動きを止める。
 するすると腕を退けられて、ようやくまともな呼吸ができると息を吐いたのも束の間、ぐすん、という鼻をすする声に慌てたヒルメスは、ばっと背後を振り返った。
 翡翠色の目にいっぱいの涙を浮かべている小さな頭をぎこちなく撫でてやると、途端に機嫌を良くしたアイラは再びヒルメスの首に両腕を絡ませようとする。
 先ほど学習させられたヒルメスは、今度は絞め殺されないように首に回されようとしたその腕ごと恋人の体を抱きしめて、膝の上に抱え上げた。
 ようやく納まるところに納まったことに安堵したヒルメスが息をついた所で、周りから冷やかすような視線がいくつもよこされた。
「愛しい女の腕の中で死ねるなら、男にとってこの上ない本望だろう」
 そう豪語するのは鍛え上げられた剛腕が自慢のクバードだ。
 徳利からそのまま浴びるように酒を飲んで笑う隻眼が、ヒルメスとアイラを面白そうに観察している。
「おのれクバード! ヒルメス殿下に何という言葉使いだ! 表に直れ!」
 起用に編まれた三つ編みを振り乱しながら、クバードを怒鳴り散らすのはシャプールだ。
 壮年の者が多い万騎長たちの中では比較的若いが、真面目さと肩苦しいほどの礼講では、彼は一、二を争う。
「シャプール! そう固いことばかり言うからおぬしは女にモテないのだ」
「な、なにを言う! お前は女にだらしなすぎるぞ!」
 二人は犬猿の仲で、一度いがみ合うと終わる所を知らない。そんな二人の仲介にいつも入らされるサームは胃痛と若白髪が絶えなかった。
 そんなサームを見かねたアイラが仲介に入ることもあるのだが、今は酒宴の真っ最中。
 酒豪が多い男たちに対し、ひとり早々に酒に飲まれたアイラは、ただいま絶賛酔っ払い中で、恋人の腕の中でほんのりと微睡んでいた。
「ヒルメス殿下、よろしければアイラを寝かしつけて参りましょうか。そのままではお酒を召されにくいでしょう」
 気を利かせたカーラーンが主を労わる。彼は妻子持ちなので子供(一応言うがアイラのこと)の面倒はお手の物。
 寝かしつけるなどとは、妙齢の女性を相手にかける言葉とは言い難いが、アイラのことを幼い頃から娘のようにかわいがってきたこの男が言うと、自然と馴染むから面白い。
「いや、このままで構わん」
 ――もちろんヒルメスにとっては面白くない話だが。
「カーラーン殿、それは野暮ってものだろう! 殿下とて男なのだ、今の状況も満更ではないはず!」
 シャプールの目を盗んで、クバードが横やりを入れると、そろそろ酔いが回りつつある者たちからどっと笑いが沸き起こる。
 からかわれていることは百も承知のヒルメスは、眉根を上げてクバードを睨んだが、この男が言うことは確かに的を射ている。
 普段、理知的で清楚なアイラが羞恥も理性も忘れて、全身で己を求めてくるのだ。嫌な気分になろうはずもない。
 恋人に甘えられて、むしろ気分がいい。
 無言でアイラを抱き直したヒルメスに、場はいっそう盛り上がる。
「ぅー、ヒルメスさま……?」
 騒々しい男たちの笑い声に、うとうととしていたアイラがもぞもぞと動き出す。
 眠たそうな目を擦りながら、再び頭をヒルメスの肩にもたせ掛ける。
 仔猫のようにあどけないその姿に、万騎長たちも互いに顔を見合わせあって苦笑した。
「アイラよ、もう休むか?」
 目を細めたヒルメスが殊更穏やかな口調で問う。
「うー。やだ……まだここにいるー!」
「無理をするな。眠りたいのなら、部屋まで連れて行ってやる」
「やー。だってヒルメスさまといっしょがいいもん!」
「そ、そうか///」
「ヒルメスさま、すき〜」
「おい、今デレたよな? くっそ、羨ましいな〜。アイラめ、明日起きたら承知せん」
 見てられん、とヤケ酒を煽ったクバードの隣で、妹の痴態を見てしまった兄のような絶望的な面持ちでシャプールが頭を抱えている。
「殿下もアイラも幸せそうで何よりだ」
「ああ、見守ってきた甲斐があるというものだ。本当に良かった」
 サームとカーラーンは目尻を下げて、娘の幸せを見守る父親と言った様子だ。
 そんなふうにあれやこれやと言って盛り上がる若い衆たちを遠目に眺めて、ヴァフリーズは自慢の髭を撫でながら喉を鳴らして笑った。
「若いもんは元気じゃのう」
「殿下にあのような失態を晒すとは、我が孫娘ながら情けない。一度性根を入れて叱らねば……」
 バフマンは注がれた酒にも碌に手につけず、孫娘がとんでもないことを仕出かすのではないかと冷や汗を浮かばせている。
 ヴァフリーズは長年の友の肩を叩き、景気付けに酒を進めた。
「そう焦らずとも大丈夫じゃろうて。アイラはバフマン、おぬしに似て、正義感の強い良い娘じゃ」
「そうやって皆が甘やかすのが、いかんのだ。万騎長たちは孫娘に甘すぎる」
「仕方あるまい。アイラのことは生まれたときから知っている。万騎長みなで、成長を見守ってきたのだ。無論、ヒルメス殿下のこともな……長かったのか、短かったのか。もう二十年以上経つのか……いろいろあったな」
「……通りで。わしらも歳を取る」
「いやいや! まだまだわしは現役じゃ。若いもんには負けられん!」
「さよう、戦場に立てば武功は譲らぬとも!」
 息漸うと戦線布告して、ひとしきり笑いあった好々爺たちは、昔話を肴に静かに酒杯を交わし合う。
 今日も平和なパルスの夜は、ゆっくりと更けていく。
 酒宴はまだまだ長く続きそうであった。


我ら国を守りし万騎長!



【あとがき】
 あれ、素敵なリクエストを頂いたはずなのに、こんな話になっちゃった……。
 先に謝っておきます、コメント頂いた方、遅くなった上にこんな話ですみませんm(_ _)m

 タイトル、適当ですが、実はけっこう気に入ってます(笑)シリーズ化したいです(笑)
 なんだか平和なパルスって初めて書いた気がします。何気にシャプール生きてますしね。
 もしあの火事がなかったら、ヒルメスは殿下のままで、夢主と円満に恋人やってるはず。
 そして多分、いろんな人から見守られて冷やかされながら、幸せに暮らしているはず。
 
 加えて、個性的で素敵なオジサマの万騎長たち、本編などで中々書けないんですが、大好きです。
 ここぞとばかりに書いてやりました。
 楽しいお話が書けて自分的には満足です。
 ご感想、お待ちしております。


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