白燈の本棚

□It's a pleasure to see you again
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その日は珍しく真選組からの依頼があった

なんでもお偉いさんが来るとかでその護衛任務


「正直よぉ、お偉いさんってダレ?」


「そんなの知りませんよ!それよりも、そんな人を僕らが護衛で大丈夫でしょうか?」


大丈夫なわけねーだろ

と、まあ、こんな話をしている間に真選組屯所前

何かわからないが、俺の感がなにかあると告げている

正直こんなことを感じる日は何もしないで一日引きこもっていたい。いや、まじで外にいたくない


「眼鏡(新八)、銀さんかえっていい?」


いっけね、つい口からぽろっと本音が出ちまったぁ


「おい!いまなんて書いて新八って呼んだぁぁぁああ⁉」


うっせえーなぁー

今いない神楽は先に真選組に行ってる

なんでも沖田くんと決着をつけるとかなんとか

依頼が入ってすぐに万事屋を出て行った

そのせいかなぁー勝手に門をくぐって入ってきたけど騒がしいんだよねぇー

・・・・門自体よく考えるとあったのかどうか。庭にひしゃげた板が見て取れたがその辺は見なかったふりで


「おーい、万事屋でーす」


傍から見ればただふらふら歩いてるように見えるけど銀さん今知った気配のある部屋目指して進んでますよー

神楽たちがいる部屋の前に来たところでどこか懐かしいような気配を感じた気がした

なぜだか、ここに来るまでに感じた何かの正体がこのふすまを開けることでわかると俺の感が告げている

意を決してスパンッと勢い良く開けた俺はそのまま動きを止めた







あれはナンだ??







そこで俺の頭の中は真っ白、それこそ漂白剤の中にぶち込まれてんじゃないかってくらいに真っ白になった

ふすまが空いた事で銀時たちがきた事に気がついた近藤と土方がよって来た


「遅ぇんだよ、万事屋」


チッと舌打ちでもしそうな土方くん

不機嫌な表情を隠そうともしないのね


「まあまあ、そう怒ってやるなトシ、今日護衛してもらうのはあちらにいらっしゃる」


そこで近藤が一度言葉を切る


「坂田?」


動かない俺に気がついた近藤さんが声を掛けてくれてるけど、どこか上の空の俺はあるものを視界に入れた途端体の奥底から自分の体が震えてるのに気が付いた








「ッ、うそ」






いつの間にか静かになったのか、俺の洩らした声が無駄に響く
















ああ、今の俺どんな顔してんだろ



その声を聞いて今まで後ろを向いていた長髪の男が振り返る




























「ぎん?」




ああ、やめてくれ。



壊れる   



なんであなたが生きているのですか






目を見開いた後、男は銀時に駆け寄り抱きしめた



その光景を見て困惑するあたりを気にする事なく銀時の名を呼んだ男


「会いたかった。銀時、大きくなりましたね」


正面に軽い衝撃と懐かしいもう忘れかけていたかの人のぬくもりが体を包む


「え…あっ、せんせぇ?」


俺は恐る恐るその人の背中に腕を回した
その体は暖かく生きている人間のようだった・・・・・


「そうですよ銀時」


俺が呼んだことでその人はうれしそうに笑ったのが雰囲気で察する事が出来た

それと同時に真っ白になっていた俺の頭の中は何十色もある絵具を一気にぶちまけたかのような混ざり合った理解しきれない感情に目が回るかと思った


俺は今まっすぐ両足をつけて立っているのだろうか



「でも、でも⁉あの時確かにッ俺」



わけが分からなくなって俺の涙腺はどうやら崩壊したらしいぼろぼろととめどなく頬を伝い畳にしみを作っていく


その姿に今まで困惑していた周りも驚いた表情を浮かべている

今の俺にはそんなこと気にしている余裕はない


「銀時達には辛い思いをさせました。あの時すでに影武者と入れ替わっていたのです」


その人が語るあの時がいつなのか俺にはすぐに理解できた


それと同時になんでこの人がここにいるのかとか、あの時死んだんじゃないのかとか、いろいろ思うことがあったはずなのにストンと心の中に落ちて





ああ、そうなんだって、思った





もしかしたら俺の中にずっとあったこの世界に対する違和感の正体はこれだったのかもしれない



あの時の俺は確かに衝動的に泣いたけどそのあとなんでか泣く事が出来なかった



それを見た晋助たちは我慢する必要ないって言ってくれたけどやっぱり泣くことはなかった



「そっか」



そう言った後俺はその人の腕の中からするりと抜けて数歩後ろに下がった




「ぎ、銀時?なぜ、離れるのです⁈」




なんで俺が離れるのかこの人は解らないんだなぁ



その方が有難いっや、ありがたいけどやっぱりおれの中で整理がつかない部分が“離れろ”ってさけんでる











いや、離れるだけじゃダメ








逃げなくちゃ







言いたくない。








言っちゃいけないことを俺は口走ってしまう









これは俺の中にしまっておかないと、口にしてしまえはこの人の心に傷をつけてしまう


彼の意思を俺が踏みにじってしまう
でもどうしてかな、足がその場から動かないんだ



まるで縫い付けられたかのようにその場から動くことを拒絶している






「松陽先生、あなたが生きているのなら、あいつが左目を失ったのはいったい、何のためだったのでしょう」






妙に心が冷えていくいつもの乱暴な物言いじゃなくて、


敬語でもなくて、







叫ぶわけではないのにあなたの生存がうれしいはずなのに心が否定する“なんで生きている!!”って







「っ、ぎん」





「わかっています先生。あなたは何も悪くない、けど、あなたが生きていることを認めたら俺たちが今までして来たことは何の意味もなくなる。それが怖くて仕方ねぇんです」








ああ、表情がこわばっていく




俺は淡々と能面のように何も感じない冷たい
話についていけない周りはただその雰囲気を察して誰も話しかけようとはしない




「私が思っていた以上にあなた達のことを苦しめていたようだ」



悲しそうな顔。傷ついている顔。苦しそうな顔。後悔に駆られる色


それをごや混ぜにしたような顔をしている


「ああ、正直に言います。俺はこれを現実として受け入れる事がいまだにできません」


「少しの時間を下さい。俺一人じゃ整理がつかない。あいつらにあってきます」









そうじゃないと貴方を否定してしまうから








その時俺はもうその人の、松陽先生の顔を直視することはできなかった
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