Nobel

□他愛もない夢の話
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夢を見たんだ。
俺とお前は同じ家に住んでいた。
朝起きるとリビングからパンの焼ける香りや、スープの香りが漂ってくる。
キッチンを覗くと、少なくとも俺よりはかなり朝に弱い筈のお前が居て。
「フランツ」
そう声をかけるとお前は欠伸を噛み殺しながら笑む。
「ルーイ、おはよう。もうすぐできるから、少し待ってろよ?」
眠いなら寝ておけばいいものを、などと思いながらもやはり嬉しいのは、日常のほんの些細なことにもお前の愛を感じるからだろう。
柔らかい口調に、優しい表情。
喧嘩を続けていた頃には向けられることの叶わなかった、お前独特の、好かれる所以。
すぐそこにあることが信じられなくも思えて、お前の存在を確かめるように、包むように抱き締めた。
確かに自分よりもほんの少しだけ低い体温を感じ、安心して肩口に顔を埋める。
「ルーイ、今包丁使ってるから危ないって。」
きっと困ったように笑うお前は、微かに朱に染まった頬を冷まそうと躍起なのだろう。
「フランツ…」
「何だよ?」
「好きだ。」
どうにかしてしまいそうなくらいな、と口元が緩むのを感じながら付け加える。
俺よりも少し低かった筈の体温がいきなり熱くなったことに満足感を覚え、恐らく顔を真っ赤にしてむすっとしているであろうお前の頭を軽く撫でて、体を離す。
リビングに戻ろうと背を向けた時に耳に届いたのは呟き声。

「Je t'aime.」

否応なく、更にだらしなく緩んでしまう顔をお前に悟られないよう、俺はキッチンを後にした…。

…なんて、こんな話をお前にすれば、によによと笑ってからかうのだろう。
だからこの夢は俺の胸の中に大切にしまっておこう。
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