Nobel

□赤く紅く
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ざまぁみろ、消えちまえ、なんて、お前に対しては言い慣れた言葉だった。
だが、それはとてつもなく贅沢なことだった。
国、それも1・2の強さの大国であるお前はそう簡単には消える訳がない。
今までも、これからも、当たり前に隣にいる存在だからこそ吐けた言葉だったのだ。

…あの時の心境は、お前が他国に侵略されかけた時に似ていた。
嫌味を言う事さえも忘れて、全力でお前を助ける術を考え、必死でお前の名前を叫んだ。
そうして、考えるより先に体が動いたんだ。

それだけ“当たり前”が崩れるのが怖かったんだろう。
……いや、違う。
最後だから、後腐れもないから、言ってやる。
「……俺、お前に消えて欲しく…なかったんだよ。…好き…だったからさ…。」
世界で一番美しい俺に愛されたこと、光栄に思えよ。
声を出そうとしても、それは息に変わる。
だから、極上の笑顔を特別に送ってやった。

「…っ、喋んな、今手当てするから!俺が助けるから!勝手に…死ぬなよ、ばかぁ…っ!!」
予想と違う反応に、あれ、と視線を上げる。
ぼたぼたと大粒の涙を溢す緑色の瞳と、目が合った。
精々する、そう言ってにやりと笑う姿は容易に想像出来た。
なのに…
「…んで…泣いてんだよ……。」
確実に、自分を最も嫌っている存在はドイツかオーストリアかこいつだと思っていたのに、何で笑わないんだ。
「俺も…消えて欲しくねぇからに決まってんだろ、ばか!」
「も…しかし…て、りょ…おも…い?」
「そ…だからっ、こっから出たら、どこでもいいから、デート…とか…!」
「…俺、お前んち…行き…たい…、久しぶりに……。ばら…見せて…よ。」
「ああ、いくらでも綺麗に咲かせとく…だから…」
「楽しみ…だな…。」
本当にうきうきした気分になりながら頷く。
死ぬ前の危険信号なのか、無意識に現実から目を逸らしてるだけなのかは分からない。
こんなに楽しい予定を話してる最中なのにお前の涙は相変わらず止まらない。
何で?分からない。
昔みたいにぎゅってしてやれば、泣き止んで笑ってくれるだろうか。
手を伸ばして、抱き寄せる。
その体は昔よりもずっと熱くて…違うか、俺が、冷たいんだ。
ああ、やっぱり笑ってくれない。
一緒に外に出て、昔みたいにお菓子作ってあげれば笑ってくれる?
美味しいご飯作ってあげれば笑ってくれる?
不味いスコーン、食べてやったら笑ってくれるかな…?
「………死にたく、ない…なぁ…。」



―赤く紅く、染まっていく……
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