水色の糸
□救ってくれた
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「井浦君、もう、大丈夫ですから、授業戻ってくれてもいいですよ?」
「いや、俺もまだまだ姫野さんに聞きたいことあったから!」
「え、はぁ…」
「姫野さんは、俺のことどれだけ知ってる?」
本当に、彼の声はよく響く。
彼の発した一文字一文字は、しっかり耳を通じて、脳に響く。
そして、心にも。
彼の声だというだけで、ここまで心が震える。
どれだけ知ってる…か。
「強いて言うなら、何も知りません」
「え?」
「知ってるけど、知りませんよ」
「え?なにそれ」
確かに意味が分からないだろう。
私も人に言われたらきっとはっきり言えやって激怒してるところだろう。
だから、井浦君が顔をしかめてしまうことも当たり前なわけで。
その表情は、ただただ私の胸を痛めた。
あぁ、こんなにも私は井浦君のことがすきなんだなって、思い知る場面が違うと思うけど。
「あの、意味、分かりませんよね、すみません」
「あ、いや、ちがくて」
「私は、漫画の中の井浦君のことなら知りすぎてるほど知ってます、北原君が自分を好いているのを苦手で、基子ちゃんが北原君のこと好きだから幾分か申し訳なくて、家族の前では騒がしくないのに、クラスメートとか、とにかく家から一歩出ればみんなの明るくて楽しいムードメーカーで、テストの点数はいつも平均で、仙石君にあんまり好かれてないと思ってて、妹思いの優しいお兄ちゃんで…」
「ちょ、ちょちょ、姫野さんストップ!」
「え、はい…」
「十分、十分だから!」
「そう、ですか」
「えと、俺の過去とかは?」
あぁ、そうか、何でこんなことを聞いてくるのかと思ったら。
そりゃそうだ、井浦君は昔の話が一番苦手なんだから。
自分の過去を知られてるとかはまずいんだな。
私も彼の過去は知りたいけど、知ることはできない。
直接聞けばいいのに、よほど他の人に聞かれたくないのか。
京ちゃんのこととか聞いてたのはこの質問をするためだったのか。
実は小心者なんだな…
「知りませんよ」
「そっか…そっかよかった!ならいいんだ!何で知ってるのに知らないの?」
随分ほっとしたんだな。
声がさっきよりも大きくなってる。
他の人とかが来なけりゃいいけど。