ピエロの涙

□#01
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気が狂いそうな程に白く、何もない部屋。
気が狂いそうな程に白く、整えられた服。
自分と同じ格好の、小さい子供たち。
「人ではない」ものとして始められた人生の中で初めて目にしたものは、白で溢れる世界。

それが、親に捨てられた僕らの全てだった。

別に何か悪い事をしたわけではない。
そう、運が悪かったんだ。
「捨て子政策」の網に捕らわれた。

長男だった僕は、先月、妹が2歳になったと同時にこの施設に入れられた。
元々女の子が欲しかった僕の両親は、妹が生まれてからはずっとそっちにつきっきりだったし、それまでも僕には無関心気味だった。

いや、少し訂正しよう。
正確に言うと、僕は長男ではない。
…といっても、全然覚えてないんだけど。
僕がまだ1歳だった頃に、僕の兄は僕同様に「捨て子政策」の被害者としてこの施設に入れられたらしい。

『捨て子政策』というのは、簡単に言ってしまえば、「これ以上の人口増加を防ぐため」という体のいい人殺しだ。

学校で少し習った程度の知識しかないけど、この政策の該当者…つまり「捨て子」は、今僕らがいるような施設に収容されて、その能力を見定められる。

一定期間観察され、社会的に適応するか否かを判断されて、前者の場合はそのままその施設で一生を過ごし、後者の場合は処分される。
と言っても、前者になれるのはごくわずかで、確率的には250人に1人か2人、らしい。

そして、今、僕と一緒にこの部屋に居るのはざっと見ても300人いるかいないか。
ここにいるほとんどの人は殺されるんだ。
それはきっと僕も同じ。
そして…

「伊織 、俺らどーなんの?」

僕の幼馴染、魁人(カイト)も同じだ。
魁人(僕は「カイ」と呼んでいるから以下「カイ」で統一する。)は僕が幼稚園生だった時からの友達で、家も近いことからよく遊んでいた。
そして、カイの家は僕のところとは比べ物にならない程の大家族(確か4男3女だった気がする)で、カイ自身、もう11歳になるのに兄弟としては三男だ。
更に言うと、カイの家の一番お兄さん…つまり長男は今年で15歳になるらしく、それまでに誰か1人以上を「捨て子」として施設に収容させなければ、義務を怠った罰として、カイの家にはとんでもない額の賠償金が請求される。

それを知ったカイは、僕が今回「捨て子」として収容されるのを聞き、家族の為に自ら「捨て子」に志願したらしい。
勿論、カイの親は反対したが、カイの意志を悟り、最終的には泣いて見送ったそうだ。
そんな親がいていいなあ、とか内心嫉妬したりするが今はもうそんな事は関係ない。

学校で習った確率的には、僕とカイが生きられるのはほぼ0に等しい。
もし、何らかの奇跡でどちらかが残ったとしても、きっともう一人は処分されてしまうだろう。
自らが生き残る為に周りの人間よりも優秀に振る舞おうとする。
そんな自分がどこかにいる気がして、この施設に来てから約1週間、ずっと嫌な気分だった。

でも、それも今日で終わる。
今日は政府の人たちによる観察結果の発表だ。
これからこの部屋に来る人たちに名前を呼ばれた人間は、これからもここで生きることになる。
自分たちの運命を左右する役人の足音が、分厚い白塗りのドアの奥から聞こえ、先程まで泣いていた子も「ヒッ、」と声を漏らして泣きやんだ。


コツ、コツ、コツ、コツ


気味が悪い程に規則正しく響くその足音は、時計の秒針のように聞こえ、それが大きくなるに比例して、僕の心臓の音も段々と大きくなっていき、


コツン       ウィーン


「これから審査の結果を発表します。今から名前を呼ばれた者は、すぐに前に来なさい」


ドアからキッチリと七三分けにした白衣の男が現れ、僕らを見るなりそう言った。

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