ピエロの涙
□#02
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パン、
清々しい程の晴天の下。
ほどほどに暖かい太陽を浴びていた僕をまどろみから引き戻した音は、僕らにとってはもはや日常的なものだった。
(…また誰かが撃たれたんだ)
乾いた「パン、」という音は粛清の銃声。
この箱庭から出られない事は知っているはずなのに、無謀にも逃げようとする人間がいる。
今のはそんな奴を粛清する音だ。
運がよければ生きているだろうし、悪ければ死んでいるだろう。
…まあどうせ、運がよく生きていても、銃創のあるやつにはお客さまは来ないだろうけど。
お客さまがいなくなるということは収入がないのと同じ。
その先にあるには、やはり死だ。
この施設、「見世物小屋」に収容され、政府の役人からの審判を受けて早4年。
始めは戸惑ったここのシステムにも慣れ、今ではそれなりの利益も出している。
…あの時は、まさか僕の名前が呼ばれるとは思っていなかった。
「伊織、」
そしてあの時、僕のと一緒にカイの名前も呼ばれた時、体中の時が止まったかと思った。
自分が選ばれるだけでも奇跡なのに、二人…しかも自分たちが呼ばれるなんて。
どうしてそうなったのかは今でもよくわからないままだけど、この今を生きていられているだけでも幸せだと思う。
「カイ。」
「今、また銃の音が聞こえたけど…」
「…うん、また誰かが脱走したんだと思う。」
「そっか。…何でだろ?」
「えっ?」
「確かに、俺らは外に出たりとかはほとんど出来ないけど、それ以外は割と自由だし。…どうしてみんな、ここから出たいって思うんだろうな?」
「……そうだね。」
カイの言うことも一理ある。
確かに、僕らは常に死の危険と隣り合わせで生きてたり、この施設より外に出ることはほとんどないけれど、それ以外はあまり厳しく制限されないし、政府の役人の言う事に従っていれば、ある程度は自由に暮らす事ができる。
「捨て子」とされた瞬間にその者は戸籍を奪われるから、一般的な社会で暮らす事も難しいだろう。
それなら、囲われた空間の中でも安全で自由に過ごせた方がいい。
僕もここに来てからずっと、そんな考えで生きてきた。
…でも、その一方で「ここから出たい」と思う奴の気持もわかる気がする。
今まで当たり前のように与えられてきた自由や権利が奪われて、「働かなければ死ぬ」という運命を押しつけられる。
それが嫌なこともよくわかる。
逃げたい気持ちもわかる。
でも、僕は「ここから出たい」とは思わないんだ。
殺されるかもしれないから?
外で安全な暮らしが出来る保証がないから?
ここでの暮らしに満足しているから?
…違う。
僕は別に死ぬことが怖いわけでもないし、外での安全な暮らしがしたいわけでもない。
勿論、ここでの暮らしにも満足しているわけがない。
ただ、本当に「逃げること」が解決になるのか。
そんな疑問だけが、僕の脱走に歯止めを聞かせているんだ。