暁のヨナ

□▼共に
2ページ/4ページ

丁度ヨナとユンが隠れた直後に山賊はヨルズらを取り囲むように現れた。


下品な笑みを浮かべる山賊にヨルズは怖気づくわけもなく無表情で目を閉じる。



「おい、こんなところに獲物がいたぞ」


「大したもの持ってそうにねえけどな」


「やっすい山賊だな」


「山賊とは安いものなのか?」



勿論ハクとキジャも余裕を見せ軽い会話さえ交わしてしまう。



「あっちには女が二人。まあまあいいんじゃねえの?」


「…美少年だよ」


「この兄ちゃんなんかいい身なりだし、この餓鬼の装飾も中々高そうだぞ?」


「よく見ればいい面してやがる。高く売れそうだ」



短剣でペタペタと頬を叩く山賊は続けてヨルズの体を嘗め回すように見定める。



「おい餓鬼、怖くて目も開けれねえってか!?安心しろよ、そう悪いようにはしねえ…がっ!!?」


「冗談言わないでくださいよ、怖くなんかないです。目の毒なんですよ」



拳を男の腹に埋め込み、うなるところにもう一度回し蹴りで吹き飛ばした。



「なるほど、刻んで構わんのだな」


「隠れてても構わんよ」


「な、なんだこの餓鬼!!おい、一気にかかれ!!」


「あーあ、可愛そうに」



ヨルズは完全に目を付けられ四方から多くの男が襲ってきた。


これがヨルズの得意戦術である、と、知る由もない。


高く宙に飛び男の一か所に集めるためハクとキジャから離れ走り出した。



「追え!逃がすな!」


「おっと、さすがにこれ以上は行かせねえよ!」



太刀を袋から出し山賊を倒していく横でキジャも龍の爪を巨大化させる。


龍の爪を見たハクは目を見開くもすぐに面白そうに鼻を鳴らした。



「待たせたな、白き龍の腕よ!!」



キジャは龍の如く、素早い動きで次々と山賊をなぎ倒していった。



「顔に似合わずえぐいねえ」


「そなたも守ろうか?」


「お構いなく、間に合ってるんで!」


「なんだ、こいつら!!普通じゃねえ!!」



ついに山賊らが血相を変えて焦り始める。



「失敬な、普通じゃねえのはその白蛇だけだ!!」



ビュッ、とハクの喉元めがけてキジャが腕を振るう。



「おっと。どこを狙ってるんですか白蛇さま?」


「もう一度白蛇と呼べば喉をかき切る、と言ったはずだ」


「気にすんなよ。趣味なんだから。つかそれ興奮しすぎじゃねえの?」


「姫様をお守りするのが至上の喜び。ヨルズだって同じだ」


「おい!!まだあのガキは片付かねえのか!!」


「それが、すげえすばしっこくて姿さえ見えねえんだ!」


「なに!?」


「ハッ、あいつもやってるねえ」



少し離れた場所で大勢の山賊を相手するヨルズをハクもにやりと笑って目の端にとらえた。


多くの山賊が転がる中央に一人凛と立つヨルズを再び山賊が取り囲む。



(多い…)



多い方がすぐ終わり手っ取り早いので構わないが、ああ、またハク達のところから流れてきた。


宙に舞い木の幹を蹴りつけ勢いをつけ山賊の首めがけ飛び回る。



「な、なんだあの者は!なんという速さ!」


「…あいつ」



誰にも、ヨルズの姿は見えない。…はずだった。


途中ぐらりと視界が真っ暗に崩れ地上に足をつけ手で地面を押し回し蹴りをする。


珍しく息が切れているのに自分で驚き、汗を手の甲で拭う。


目の前の山賊をどうにか一掃し、ハクの元へ駆けた。



「あいつら変!絶対変!!キジャはこの世のものとは思えないし、雷獣も修羅も人間業じゃないよ!」



山賊はユンとヨナの見据える先で戦う彼らの敵じゃなかった。


遠くでハクを狙う山賊に短剣を投げつけ背を合わせた。



「まだ片付いてないんですかこちらは」


「うるせえ、休んでろお前」


「あと数秒だぞヨルズ」



短剣を飛ばしたヨルズはその後素手で戦い、ほとんどの山賊が地面に伏していた。


踏み出したところでぐにゃりと足の力が抜け咄嗟に手を使い宙返りしてなぎ倒す。


そのまま回り蹴ろうとするが力が入らずに焦る。



「っ!」


「やった!当たった!!ユン教えるの上手!!」


「人のだと分かるんだけどなあ」



真っすぐに飛んできた矢がちょうどその山賊を掠めて逃げ出した。


驚くが助かったと横目で見つつ周りを見渡すともうほぼいなかった。



「きゃっ!」


「おとなしく人質になってもらー、ぶっ!!」



ハクの太刀、キジャの爪、ヨルズの蹴りを受けた山賊は呆気なく意識を失い倒れた。


ヨナを人質に取るのは一番の地獄行だ。


倒れそうになるヨナを支えるのはハクとキジャだ。



「平気か、姫さん/姫様?」


「うん、ありがとう」


「めんどくさ」



平穏を取り戻した彼らは服についた埃を落とし、ヨルズはヨナとユンの手を取り目線を合わせた。



「助けてもらってしまいました。ありがとうございます、お怪我がないようでよかった」



怖かったですよね、と身を案じてくるヨルズにヨナはふっと笑った。



「あんなのどうってことないわよ、ヨルズ。私も強くなったみたい」


「俺も。あんたらがいれば死なないって分かってるし」


「………あはは、そうですか。要らぬ心配でしたね」



城にいた頃のヨナと、目の前の少女は全く違うのだと身をもって感じた。


短剣を取りに行くとヨルズは踵を返して山賊へ向かった。



「そなた、何人倒した?」


「あ?覚えてねえ」


「私は二十八だ」


「じゃあ俺四十」


「嘘をつけ、覚えてないと言うたではないか!そもそもそんな人数いな…!」


「キジャ!?大丈夫?」



キジャが腕を抱えてその場にしゃがみ込み辛そうに肩で息をする。


異変に気づいたヨルズも慌てて駆け寄る。



「少々…暴れすぎました。もっと洗練された闘いをお見せするつもりが…」


「争いなんて綺麗にするものではないですよ。気にすることないです」


「俺も、いいと思うぜ。白き龍神様の血生臭い闘いっぷり。嬉しいねえ。城にいた頃は本気で俺についてくるのはこいつしかいなかった。しかもヨルズは誰とも戦いたがらねえし。今度、一度手合わせ願いたいものだ」


「貴方みたいな人がゴロゴロいるなど、安心して暮らせませんよ」


「ねえ、ところで…この血って誰の?」



地面にぽたぽたと続く赤い血をユンは指さすと皆その先を目でたどる。


血は山賊のところで少々たまった後にこちらへ再び引き返してきている。


たどり着いた先はあっけらかんとしたヨルズが立っていて、真下に血の海を作っている。


上着をめくり背に手を回せば湿った感覚が、目の前に手を持ってくれば赤い鮮血が指を染めていた。


当の本人もたった今気づいたようで何も喋らずに手の鮮血を眺めていた。



「…ああ。なるほど、……だから、視界が……くら、…く………」



膝から崩れ落ちるヨルズを寸でハクが受け止め、地面との衝突はどうにか避けた。


よく見ると珍しく汗をかき呼吸も荒いヨルズ、顔が赤いのも熱っぽかったからかとハクは舌打ちをした。


羽織を脱がせるだけで中の着物の背が血まみれになっており、傷口が開いているのが分かる。



「ああもう馬鹿!なんで気づかないのかなあ!血が足りなくなっちゃうよ!」


「やっぱ調子悪かったか、こいつ」


「知ってたの雷獣?」


「闘ってるとき、見えねえはずのこいつの姿がたまに見えるんだよ。多分あの時だ」


「本当は傷治ってないんだよ。しれっとしてるけどボロボロなんだから」


「私が手当てするわ。男の子はあっち見てて!」



ユンさえもハク、キジャと同じように後ろを向かされる。



「手負いでありながらあれほどとは…化け物か」


「あんたに言われたくないと思うよ」


「だから無理すんなって言ったのに」


「うむ。大人しく姫様と共に隠れていればよかったのだ」


「う、うわあ!やっぱりユン手伝って!!」


「き、切り替えが早いよお姫様!!」


「「…………」」



取り残されたハクとキジャの間には微妙な空気が流れた。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ