暁のヨナ

□▼生きるために
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眠ったのは数時間であったが、久々に深く眠ることができた。


目を覚ましたヨルズが近くに寝息を感じるとそれは壁にもたれかかるハクのものであった。


近寄っても起きない彼の無防備な顔のクマが、疲れを物語っていた。



「……馬鹿な人……」



ふっとその顔を優しく手でなぞり、ヨルズは部屋を後にした。


ぐちゃぐちゃになった化粧を直すために厠へ向かう。


昨日のハクとの出来事が頭をめぐる、なんとも実感がわかなくて体がふわふわする。



「…生きる……か」



それは、まったくもって考えていなかった選択肢だった。



第五話 生きるために



「あ、…ヨルズ兄ちゃんか?」


「テヨン。早いですね、まだ日も上がっていないのに」



化粧を直した後に部屋に戻る途中話しかけられる。


ヨルズはテヨンと目線を合わせるためにしゃがみ込み、頭をなでる。



「おまえたちの食事を作らなくちゃいけないからな。何が食べたい?」


「なるほど。そうですね、では…握り飯を五つほどお願いできますか?」


「そんなのでいいのか?」


「ええ。テヨン、私とハク将軍はしばらくしたらここを発ちます」


「…どういうことだ?」



かわいらしいテヨンの表情が一気に泣きそうになる。


抱きしめるとテヨンは胸の中で小さな嗚咽をし始め、その背をヨルズはぽんぽんとさすった。



「テヨン。あなたの食事に私は助けられました。温かくて、…優しくて…」


「ハク兄ちゃんも、…行っちゃうのか…っ?」


「少し旅に出るんです。帰ってくる頃、テヨンはハク将軍みたいに大きくなってるかもしれないですね」



ひっくひっくと小さな手を精一杯ヨルズの背に回し、体全部で感情を表すテヨンをなだめるよう何度もさすった。



「リナを、お願いできますか?」


「……!あ、たりまえだろ!リナは家族なんだ!リナもハク兄ちゃんも、…ヨルズ兄ちゃんだって!」


「っ…感謝します。……ありがとう、……ありがとう、テヨン」



ぎゅっと抱きしめる力を強めた。


テヨンが作ってくれた握り飯を受け取り、次にヨナの部屋を訪れる。


ヨナは眠っていたがふとうめきをあげて辛そうだった。


あの悪夢か。



「……ヨナ姫…。私は……、ヨルズは、ハク将軍と共にここを去ります」



ヨナの隣に膝をつき小さな手をとる。


ヨナの瞳から滴が一筋落とされた。



「…私は、あなたの幸せを、…願っております。…どうか生きて。……ヨナ」



敵の護衛としてでなく、ヨナの血を分かつ双子の妹として。


ヨナの手に口づけをして最後に一礼し、部屋から立ち去った。



「あ…」


「ヨルズ。戻ったか」



部屋から出たところに険しい顔をしたムンドクが立っていた。


まるでヨルズがここに来ることが分かっていたかのように。



「…ハクと出ていくんじゃな?」


「…ええ。…ムンドク様もよほどのお人よしですね。ハク将軍は貴方様に似たようです」


「…………」



ヨルズが言っていることをムンドクは理解していた。



『私は、…ここの家族じゃありませんから』


『…裏切るのは、…私です』


「…………お前は、わしの家族じゃからな」



そう言えば目を見張って驚き、次にふにゃりと微笑んだヨルズ。


昔のヨルズに戻ったとムンドクも微笑んでヨルズを抱き寄せた。


ヨルズもムンドクの背に手を回し、ムンドクの温かさを感じる。



「そうですね。私は、ここの家族ですから」



その言葉を聞いたムンドクは静かに涙を流し、ヨルズをより強く抱きしめた。



「ヨルズ!」


「わ」



ハクが眠る部屋に戻ると、目を覚ましたハクが部屋に入るなりヨルズの肩を掴んでそう言った。


様子からすると起きてもいないヨルズを探していたというところか。



「っ!出ていくなら俺に言えよ、焦った」


「…それは、すみませんでした」



我を取り乱しつつあったハクはため息をついて頭をかいた。


テヨンから受け取った握り飯をハクに手渡して先ほどまでのことを話す。



「お前も食え」


「………。自分で食べれますから」



握り飯を向けられたヨルズは首を傾け、並ぶ握り飯をひとつ手に取り頬張った。



「あの、…念のためにもう一度聞きますがー」


「ソンの名前はじっちゃんに返した。俺は部族長でもなんでもねえ、ただのハクだ。これでここに迷惑がかかることはねえ。異論は?」


「………本当に…」


「ああ、本当に馬鹿だよ。この俺がここまでするなんてな」


「…まさか、起きてー」


「あの時に起きればよかったな」



そっぽを向いて照れくさそうに言うハクが少しかわいく見えた。


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