暁のヨナ

□▼共に
1ページ/4ページ

白龍のキジャを旅の仲間にすることができたヨナ一行は次の龍を探しに出ていた。


川を見つけたので水の確保がてら束の間の休憩をとることにした。


キジャは龍の手で透き通る川を触れると光が反射し、キジャがより一層美しく見えた。



「とりあえずはまだ元気そうですね、キジャ様」


「うむ。とても気持ちがよいぞ。神話の時代より受け継がれた我が一族。私は必ずや王をお守りするのだ!!」



隣で水筒に水を汲むヨルズはキジャの真っすぐ曇りのない生き生きした表情に思わず微笑んだ。


そしてヨルズと同様、この後の野宿生活にきっと苦しめられるであろう事実はまだ伏せておく。



「白蛇様。お疲れでしょう、慣れない旅は」



口角をあげてハクが挑発するようにキジャに近寄ってきた。


面倒くさそうな雰囲気にヨルズは静かにその場を退いて木陰にもたれかかり様子を伺う。



「もう一度白蛇と呼べばその喉、かき切るぞ。これしきで疲れるか」


「やー、そろそろ里が恋しくなるころかなと」


「何を言う。姫様が私を望まれたのだ。もしものときはそなたを守れ、とな」


「箱入り坊ちゃんが戦えますかねえ?」


「しずまれい!」



ヨナが二人の間に割って入り拳を振り上げる。


まるで喧嘩している子供たちの仲裁に入るかのようだった。



「これから一緒に旅するんだからもめないの」


「…申し訳ありません、姫様」


「ハクも。キジャは初めて外に出て、不安でいっぱいなんだからいじめない」


「私はそんな!」


「キジャ、ハクのいじめっ子は趣味だから気にしない」


「ほんと。そうなったハク様面倒ですので素早く切り上げたほうが得策かと」


「…うわ、雷獣かわいそう」


「…………」



包み隠さず毒を吐くヨルズの発言を丁度聞いたユンがぼそりと呟く。


そっぽ向くハクを憐れんだ目で見てから出発するよと告げた。



第八話 共に



「うーん。ねえキジャ、ほかの龍の気配が分かるんだよね」


「ユン、と言ったな。もちろんだ。心の目を研ぎ澄ませば龍の気配を感じることができる」


「じゃあ一番近いやつ教えて」


「やってみよう」



地図とにらめっこするユンにそう問われ、キジャは目を閉じて気配を探る。


ヨルズはなんとなくソワソワしてある一点を見つめた。


別に敵がいるわけでも何でもないがただ気になるような。



「…おそらく最も近いのは…青龍」


「へえ。誰がいるとか分かるんだ。どこ?」



そうだな…とこぼしながらキジャはある方向を指さした。


不思議とキジャとヨルズの視線は一致していた。



「あー。場所は見事に大雑把だね」


「案ずるな。皆私についてまいれ!!」


「案ずるよ!生まれて初めて外に出てきた奴について歩くなんて案ずるよ!!」


「外に出ずとも外のことくらい知っている。我が一族は外の情報を集めていたのだから」



どこかの喜劇でも見ているのだろうか。


振り返りながら歩くキジャの前には大きな穴。


落ちるまであと三歩、二歩、一歩。



「な、…ぁぁああああーーーーっっっ!!??」


「まるでフリのようなセリフでしたね」


「お前意地くそ悪いな」


「貴方よりはましです」



穴を覗き込むと木の根がむき出しになり枯葉で埋め尽くされたそこは虫でいっぱいだった。


血の気が引き全身の毛穴が開き目を背けたくなる光景に苦笑する。



「なななな、なんだこの者たちは!!誰の許しを得てここに居を構えておるのだ!!ま、待て、ああ、それ以上はっ!」



「白龍様は最後尾をのそっとついてきな」



阿鼻叫喚が穴から響き、ユンは呆れ顔で吐き捨て、思わずヨルズは手を合わせる。



「よっ」


「っ…!!?」



軽く肩を押されたヨルズは無我夢中で近くに手を伸ばして引き寄せるように体勢を戻した。


言うまでもない犯人は脇を見て口笛を吹くハクだ。


ハクの腕に咄嗟にしがみつきハクを睨みつけた。



「本当に、貴方って人は…!」


「いってえよ修羅さん、握力化け物かよ」


「貴方に言われたくはないんですよ」



抑え気味に声を荒げるヨルズが腕にぴとりとくっつくが若干の震えを感じてハクが見下ろす。


赤くなり上目遣いにキレているヨルズを見て急にハクは顔を背けた。


ドン、と両手でハクを突き放して腕を組んだヨルズは落ちたキジャを案じ、声をかけた。


わずかな怒りが込められていたが。



「…あれ、雷獣よほど修羅のこと好きなんだね」


「えっ!そうだったの?」


「お姫様気づかなかったんだ。まあ修羅にその気はないようだけどね」


「ハクってば生涯を決めた奴はいる、しか言わないのよ。でも一向にその人に通うわけでもないし。まさかヨルズだったなんて…」


「そっか、今までヨルズ男だったもんね。納得」



どうにかキジャを引き上げて地上へ出すと、体をさすりながら辺りをうろつく。


黙っていられないキジャは時々うなりながら虫の感触を払拭させようとする。



「龍神様は虫より弱いんですね」


「違う!私はわさわさもさもさにゅるにゅるしたものが嫌いなだけだ」



涙目で赤くなりながら必死のキジャはハクを睨みつけた。



「我が力は誇り高き白き龍より賜りし神の力。常人のものと思うな!」


「あ、そこにげじげじ」


「ひっ!」


「嘘ですよキジャ様。この者、そこに一緒に突き落としますか」


「なっ!そうするのがよい!覚悟しろ従者!」


「と、言いたいところですが」



腰の短剣に手をかけてみせるヨルズに空気が一瞬で張り詰めた。


と言ってもハクは勿論この状況を感じ取ってはいたのだが。



「姫さん、隠れて」


「どうしたの?ハク、ヨルズ」


「山賊でしょう、足音が下品です」


「誰か来る」


「しかも結構な数だ」


「まずいよ。ここ火の部族のご近所さんなんだから」


「火の部族は敵か?」


「できれば、というか絶対避けたいところですね」



ハクはユンとヨナを近づけさせ草むらの陰に隠れさせる。



「ねえハク、弓を使ってもいい?」


「先生は許しません。大人しく隠れてなさい」



頬を膨らませ不満気に落胆するヨナをなだめてユンはヨナと身を潜めた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ