暁のヨナ

□▼闇に灯る光
1ページ/4ページ

「なんかさあ、ヨルズって最初会った時は所詮洗脳受けた城の人間だと思ってたんだよね」


「どういうことだ?」


「なんの根拠もない昔からのしきたりにただただ従う。そのための駒、みたいなつまらない人形。何というか、見た目にそぐわないくらい大人だなって」


「確かに私もヨルズってスウォンに仕えてたときすごく賢くて強くて礼儀正しくて、見た目は青年なのに大人びてるなと思ってたわ。…人前ではね」


「裏ではあのようなのですか?」


「今みたいなずるがしこさとか面倒見の良さはあったわ。スウォンはよくヨルズを困らせていたし」


「結構子供っぽいとこあるよね。って最近思った。人間臭いとこあるし」


「今のヨルズの方が私は好きよ。ちょっと前まで考えてること分からないなー、って思ってたの」



青龍探しに出かけたヨナ、ユン、キジャがヨルズの噂話をする。
っくしゅ、とヨルズは寒くもないのにくしゃみをしてハクに心配される。



「あいつらお前のこと話してんじゃね?」


「なんですかそれ……」



事実、噂されていたヨルズだった。



第一〇話 闇に灯る光 



「まさかここに隠し通路があるとは思わなかったあ」


「ええ。これも…あとでヨルズに返すだけ返しましょう」



ガコン、と仕掛け扉が開かれるとヨルズが閉じ切らないようにかけた短剣が変形して地面に落ちる。
結局は意味をなさなかったが、いかにこの扉が重工に作られているかを物語っていた。



「おお!開いた開いた!面白い!」


「姫様、ユン、私はここで待っていますから。この先に青龍がいます」



周囲を警戒しているキジャは背後をつけている村人を見つけ、不思議がるヨナを連れていくようユンに合図をする。



「大丈夫!道ならこの天才美少年が把握してるから!」


「頼んだぞ」


「了解」



ユンがヨナを連れて通路の先へと急ぐと、キジャは振り返り仮面をかぶった村人と対峙した。
村人は後ろに短剣を隠し、敵意をむき出しにしていた。



「このような狭き場所で何ようだ」


「その先へ行ったものを帰すわけにはいかない。……あの女も、男も、お前も皆だ」


「黙れ。赤き龍の尊さをも忘れた不届きものども。あのお方に近づくこと、この白龍が許さぬ」


「私たちがこの中でお前の仲間にどんな仕打ちを受けたか知っているのか!!」


「私の仲間がこの中でそなたたちにどんな風にされたか、知っているか。暗闇の中手を引かれ見知らぬところへ連れていかれ、かくなる上は集団で襲い掛かった!どの口が言う!!」



キジャの怒号と同時に爪が巨大化され、村人はざわめいた。



「死んだ者はいるのか。ヨルズは人を殺すことはない。あの者は自分が傷ついても人を殺める大馬鹿ではない!恥を知れ!」


「っくしゅん!」


「おいおい冷えたんじゃねえよな」


「埃ですかね。ここ土埃たまってるんじゃないですか」


「ひでえなお前」



留守番をしていたヨルズは再びくしゃみをし、ハクと無駄口を叩いていた。
キジャが村人の足を留めてくれている間にヨナとユンは歩みを進めた。
途中土の色が変わっている場所に気づき、ヨルズがどれほどの相手と戦ったのか見て取れた。



「………進もう。皆待ってる」


「…ええ。よかった、皆目覚めて」



ヨルズに倒された村人はすでにこの外へ運び出されたようだった。
歩みを進め段々と音の反響が大きくなってくると、ユンが近い、と声を漏らした。



「………こんにちは」



先ほどヨルズと一緒に助けてもらった仮面の男が、低い姿勢でヨナとユンと対峙していた。
剣に手をかけ、声をあげながらヨナに威嚇する男はヨナには怯えているようにも見えた。



「やばいよお姫様!!こんな穴倉の奥でうずくまってるなんて!やっぱ危ない人だったんだよ!」


「ぷっきゅー!」


「あ、また会った!」


「何この頬袋パンパンの小動物!詰め込みすぎだよ!!」



この通路に導いてくれた可愛らしいリスがヨナに近づき、ヨナは優しく抱き上げた。
リスは元気よくヨナの肩に回り込み、きゅっきゅっと鳴いた。



「あの時は心配してくれてありがとうね。ねえ、この子なんていう名前?」


「……………………。アオ」


「あ、応えてくれるんだ」


「全然似合わないわね」


「ぷっきゅー!」


「歩み寄ろうよお姫様!!」


「………似合わない、……やっぱり……。……俺も、……そう、思う………」



心なしか落ちこんだような青龍に、アオは元気に鳴いて見せた。



「私はヨナ。あなたの名前は?」


「………青……、龍」


「あなたの名前よ。それは、あなた自身の名前ではないでしょう」


「……名は………ない。……ただ、……青龍だ」



未だ警戒を解かない青龍にヨナはずんずんと歩み寄ると、青龍が背から剣を抜きヨナに向けた。



「寄るなぁあっ!お前たちは何だ。何故、…この里に入ってくる。何故俺に近づく!何故、…あの白い龍は!」


「私は、あなたに会うためにここまで来たの」



切っ先を向けられてもヨナは臆せずに青龍に語り掛ける。まるで怖がる子供をなだめるように。



「青龍。あなたの力を借りたいの。私と一緒に来てほしい」


「俺の……力……?……っ!」


「お姫様!」



青龍はヨナの胸倉に掴みかかり、震える剣を向けて威嚇を続けていた。



「俺の力を欲すものは………敵…っ!!お前、………お前は、…なんだ!!」


「………青龍…?」


「知らない………知らない、知らない知らない!!なんで、…どうして……!」


(泣きたい気持ちに、なるのだろう)



歯を食いしばって体験したことのない激しい感情に耐え、青龍はヨナから手を離し剣を下ろした。



「青龍。私はあなたの敵じゃないよ。私は、私と仲間が生きていくために四龍探しをしているの。あなたを仲間として迎えたい」


「俺は……呪われている、…から」


「呪われて……?」


「この力は、決して外に知られてはならない。破滅の力…」


「誰がそんなことを……」


「だから、行かないと?」


「ねえ青龍、会わせたい子がいるんだ。青龍と同じように、呪われた子だとか忌み子と言われて苦しんできた女の子だよ」


「……忌み…子…?」


「ええ。昔からの因縁によって、生まれたことまで罪のような扱いを受けてきた仲間よ。……私の、…妹。あなたが助けてくれた子よ」



青龍の脳内にとてつもない速さ、急所を突く的確さを持ち合わせ村人を倒し、肩を血だらけにした人の姿が浮かんだ。



「………去れ。…………去れ!」



静かながらに強い青龍の声に、これ以上は混乱を起こすだけだと判断したユンがヨナに引き上げるように言った。
ヨナもやむを得ない状態に名残惜しそうにその場から立ち去ることを余儀なくされた。



「ひとつ言わせて。あなたの手はとても温かかった。呪いがどんなものかは知らない。でも、あれが呪われたものの手だというのなら、あなたが恐ろしい呪いを持っていたって…私は全然かまわない」



残された青龍はヨナとユンの背が小さくなるのを見て、胸が痛くなった。
胸に手をあて、心臓が引きちぎられるような感覚に感情を揺さぶられた。



「仲間……なんてこと、……ずっと忘れていたのに」


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ