ナマモノ小説
□夢の中でも
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暗闇の中を歩いていた。
手探りしながら…前へ前へと。
正直…怖かったけど、それを口に出すのは嫌だった。
だけど…不安感は募る一方で…知らない内に涙がポロリと落ちた。
「なに泣いてんねん…。カッコ悪…」
小さな声で呟いたら…誰かの手が自分の手を掴んだ。
「こっちやで…」
え…この声っ…て…。
「つ〜よ〜し!」
「ん…?」
「なあ、剛って!剛…!!」
ゆっくり目蓋を開けた剛に、光一が笑う。
「お前…大丈夫なんか?泣きながら寝てたで?」
「ぅわっ…ほんまに!?」
剛は、慌てて自分の目に手をあててみた。…確かに目尻が濡れている。
「怖い夢でも見てたんか?」
心配そうな声で光一が、剛の顔を覗き込みながら、ぽんぽんと肩を叩いた。
あかん…。そんなんせんといて…。
優しい手に泣きそうになる。
「光一が…俺を助けてくれたんや」
「へっ…?」
一体なんの話?…なにを言うてるんですかアナタ…と、剛を凝視する光一に、剛はふんわりと笑った。
「夢の中でな、暗闇の中をビクビク歩いてる俺を…光一がサポートしてくれたんや。こっちやで…って、手を引いてくれて…」
嬉しかった…と、微笑む剛に、光一は顔を赤らめた。
「なんやソレ。ほんまに俺やったんか?」
「光一やで?顔はわかれへんかったけど…あの声は光一やった。俺の手引く感じも光一やった」
夢の中の話だというのに、自分だった、と断言する剛に照れてしまう。
剛は…夢の中でも俺を必要としてくれてんねんな…。
光一は嬉しくて仕方なかったのだが、なんだか照れくさかったので、言葉では返さず、剛の唇を掠めるようにキスをした。
驚く剛の顔に笑いながら…。
END