ナマモノ小説

□朧月
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 「剛…」
 楽屋で寝入ってる剛に光一は声をかけてみた。

 「めっちゃ爆睡やな…」
 呆れながらも、寝顔が可愛いな…と、剛の頬を撫でてみる。

 くすぐったそうな笑みの形の唇から、かすかな吐息が漏れた。
 本当は、甘い息を零すその唇に触れたかった。
 自分の唇で…。


 「あかん、あかん…。なに考えてんねん」

 剛を見ていると、どうしようもない飢餓感に襲われる。

 好きなのだ、このオトコが。
 たまらなく…。

 だけど…言えるワケがない。

 ただでさえ、繊細で危うい心を持っているのだ。
 昔に比べてあまり神経質ではなくなった、とはいえ…、いきなり相方から「好きや」なんか言われたら…倒れてしまうかもしれない。


 揺れる想いに光一はため息をついた。


 何度も諦めようと、彼女を作ってみたりもした。
 けど…続かない。
 自分のワガママぶりに引かれてしまう。
 剛ほどに自分をわかってくれる人間はいないんだな…という現実を突きつけられるばかりなのだ。

 カユいところに手が届かない。
 もどかしい感覚。
 ついつい、こんな時剛やったら…、剛はきっと…と、剛と比べてしまう自分に呆れてしまう。

 比べてどないするねん…。


 だが、剛に対する欲は膨らむ一方で、触れたい、口接けたい、抱きたい…そう思う気持ちが一層強くなってきた。
 仕方なく、一夜限りのオンナに手を出したりもしたが……抱きながら想うのは…やはり剛のことばかり。

 剛は…どんな風にオンナ抱くんかなぁ。

 剛は…どんな表情してイクんやろか…。

 今、なにしてんのかなぁ…。


 逢いたいなぁ…。


 朧月に剛を重ね、今夜も1人ため息をつくのだろうか。
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