ナマモノ小説
□どっちもどっち
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彼の綺麗な瞳から…今にも零れ落ちそうな涙の溜まりを、親指の腹で拭った。
感受性の豊かな彼は、とても傷付きやすく、他愛もない噂ひとつにでも儚い涙を浮かべる。
「気にすんなって…」
「ん……っ…」
些細な中傷に小さな胸を傷めて…。
俯いた項の白さが彼の姿をさらに痛ましくみせた。
俺は唇を寄せると、浮き上がる白い項にそっとキスをした。
慌てて顔を上げた彼の顔は、有り得ないくらい真っ赤で…笑いながら俺は、今度は唇を掠めるようにキスしてやった。
「泣くな、剛…。こんなコトで泣いたらあかん。どうせ泣くんやったら…俺のベッドの中で、俺になんかされてからにしぃや?」
「なに言うてんの…」
呆れ顔で俺を見た彼は、恥ずかしいのか直ぐ視線を逸らした。
「そしたら…俺のせいに出来るやん?俺が泣かせてるんやなあ…って思たら、俺も安心出来んねん」
「?」
「俺の知らんとこで…俺の知らんことで泣かれんの…いややから」
そう言って再びキスしたら、彼は嬉しそうな笑顔を見せて、今度は自ら唇を寄せてきた。
「光一には…かなわんわ…」
「俺もおまえにはかなわんからな…」
END