ナマモノ小説
□消しゴムくんとコンビニくん(パラレル)
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あ。来た。
光一の視線の先は1人の青年に釘付けになる。
黒髪の青年。色は抜けるように白く、どこかたよりない風情で、時々ふらりと脚を運ばせては毎回同じモノを買っていく。
それも食べ物や飲み物とかいう類のモノではない。
『消しゴム1個』
それのみだ。
いやいや、それダケ。
それしか買わない。
それ1つ。
…言葉をかえても同じだということに気づいた光一は、諦めたような顔でレジの前に来た男の顔を眺めた。
視線を感じたのか、伏せた瞳がチラリと光一を見た。
目が合い、思わず染み付いた営業スマイルを見せてしまう。
光一は車の営業販売の仕事をしていたのだが、車のことで上司と喧嘩をしてしまい、「こんな上司の下でやってられるかっ!!」と、啖呵を切って辞めてしまったのだった。
普段から車を大事に扱わない上司には、イライラさせられっ放しだった。
なんでこんなヤツが車の販売やってんねん。
経験はともかく、自分の方が車に対する知識も情熱も愛情も上だと、光一は自負していた。
大切に大切に扱い、求められる主へ渡さなければならない時には、愛しむようにボンネットを撫でた。さながら恋人ととの別れを惜しむように…。
上司はそんな光一の度を過ぎた愛情表現に退いていたのだが。
車中での飲食なんかは、光一には御法度である。
よくカップルや親子連れが車中でマックのポテトだのハンバーガーだのを頬張っていたりするが、光一は見てるだけで発狂しそうになる。
うわっ…!!
あの油ギトギトの指どないすんねん。
…そないかぶりついて…中身飛び出たらヤバいのんちゃうん…。
気が気でない。
俺は絶対車中マックはせぇへん!!
完璧車一筋歪んだヲタな光一だった。
そんな光一だったが、最近近所のコンビニで働き始めたのだが、消しゴム1個しか買わないオトコが気になって仕方なかった。