ナマモノ小説
□wait and see
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「い…た…っ…」
ライブが終了し、ヘトヘトになって帰ったホテルのフロント。張り詰めていた気が緩んだのか、剛はイタタた…と、顔を歪ませ膝を抑えたまま床にしゃがみ込んでしまった。
無理もない。
以前から、思うようにならない膝の不調をことあるごとに嘆いていたのだ。
それは何も、悲観的になってのことではない。
あるがまま進みたい。
周りやファンに心配や迷惑をかけたくはない。
けれども、症状を黙ったまま無理をし、悪化しては元も子もない。
前向きに。
良い方向へ向かっていけるように。
わかって。
受け入れて。
そんな願いがあるのではと、光一は思った。
周りのスタッフも光一も、剛の心情を考慮し、膝への負担はなるべくかからないよう配慮した。
それでも長時間のライブはかなりキツかっただろう。
光一は、即座に剛の隣にしゃがみ込み、顔を覗くようにして訊ねた。
「…大丈夫か?」
剛は膝をさすりながら笑って答えた。
「ふふっ…ちょっと…無理したな。楽し過ぎてハジけすぎたわ。…昔と違てカラダはオッサンやからな。心とカラダは別やって、よう言うけどホンマ…痛感するわ。あ…大丈夫やで?部屋に帰ったらようマッサージしとくし…」
そう言って、心配するなと光一に軽く膝を叩いてみせた。
ところが、光一は顔を歪めるなり、いきなり剛の腕を自分の肩に回し、立ち上がるや否やズルズル引き摺るようにして近くのエレベーターへと向かったのだった。