残酷な運命を抱えた奇跡の超能力者の望み
□闇に沈むなら
1ページ/2ページ
7月17日
日も暮れ始めた時刻。
「逃げんなぁああああ!!!!」
自らの姉であり、学園都市に八人しかいない超能力者の第三位に君臨する常盤台の制服を纏う少女ーーー超電磁砲こと御坂美琴がどこかしらの高校の男子生徒ーーー否上層部からすれば幻想殺しを宿す無能力者・・・上条当麻を追い掛け回しているのはもう何度目だろうか。
『お姉様。今日も元気そうで何よりです』
くすり、と綺麗な茶髪を揺らし一人の少年ーー学園都市第八位に君臨し、電撃使いとベクトル変換を有する超能力者と同時に学園都市第三位御坂美琴の弟である 姉の面影を強く持つ彼、御坂瑠雨は北叟笑んだ。
その赤い瞳はどこか愛おしそうなものを見つめるかのように遥かに優しさと穏やかさを帯びている。
「おー今日もやってんの?お前の姉貴」
少年はふと、顔を上げ背後から忍び寄ってきた気配に目を向ける。
そこには学園都市第二位に君臨する超能力者にして未元物質という珍種な能力を有する男、高校生・・・だが、学校には一切行かず学園都市の闇に潜む暗部組織の一つ、「スクール」のリーダーを勤めている存在。
『ええ、そうですね。
でも元気でいいことじゃないですか?垣根さん』
少年は静かに笑みを深くした。
「そりゃあそうだな
でも第三位昨日銀行強盗が逃走しようとした車をぶっ飛ばしたんだって?」
『不可抗力ですよ。
まあ少しやりすぎですが』
その言葉に垣根は呆れたような笑みとこれでいいのか、この姉弟・・・と思い始めたのは言うまでもなくそんな悩みに垣根が襲われているのも気に求めず目の前の少年はそれで、と言葉を続ける。
『あぁ、そうそう。
今日声かけたのは少し気になったことがあってですね。』
瑠雨は業務用のスマホを取り出し、手際良く操作し、ある情報を能力のハッキングにより引き出し垣根に手渡した。
『これ、ついさっき発生したばっかでまだニュースとかになってないんですけど、先程近場のコンビニで爆発事件が起きたらしいんです。試写は出てはいないらしいですが、負傷者は風紀委員らしくて・・・・・』
「ほぉ?」
『それで気になったんです。
いや、その1件なら別に疑う必要性もなかったんですが、』
いやそもそも最初の事件は1週間前からなんですけど、と瑠雨は言葉を切り、スマホに微弱な電流を流し込んだ。
その瞬間爆破事件の項目がズラリとディスプレイに表示され、垣根は眉を潜めた。
「あぁ?」
何故ならアルミ缶を利用した爆発がこの1週間で多発し風紀委員へと報告されている情報がびっしり表示されているのだから。
『ということなんですよ。
それで調べてみたんです。単純な無能力者とか低位能力者のイタズラ、とも考えたんですけど、先ほどのコンビニの件でひっかかりまして。
もしかしたら、単純な犯行ではないのかも・・・って疑ってちょっと風紀委員の書庫をかして頂いて、 爆発に関する能力、調べたんですけど』
「あったのか?」
『はい。量子変速。
量子を変速させる能力でアルミを基点に重力子を加速させ、周囲に放出する。
つまりアルミを爆弾に変えることが可能な能力なんですけど・・・』
そこで瑠雨は難しそうな表情をして言葉を詰まらせた。
それに垣根が首を傾げる。
元々瑠雨は言葉に詰まる方ではない。それを知っているからこそ垣根は不思議に思ったからだ。
「どうした?
書庫ならその能力を有する能力者の名前もわかるだろ。」
『そこなんですよ。』
かじ、と親指にの爪を噛む。
瑠雨は感情をあまり表情に出さないが現在実に悔しそうに納得のいかない表情を浮かべていた。
『元々、この能力・・・
アルミを爆弾にするほどに必要な強度は大体大能力者から。
それにめったにあるような能力じゃないですよね。
量子変速能力者、大能力者以上。
そしてそれに合致する能力者はたった一人。大能力者、釧路帷子だけなんです』
「じゃあその女じゃねーの?犯人」
『・・・・・・違うんですよ
さっき調べさせてもらったんですが
彼女・・・事件が起こる前から原因不明の昏睡状態に陥っているんです。』
「昏睡状態の人間が爆弾事件を起こす?んなもん不可能じゃねえか。」
垣根も訳が分からんと呟いて瑠雨同様眉を潜めた。
何より超能力者として誇る頭脳が二つあるからこそまどろっこしく感じられるのだ。
『そう。だから謎、なんですよ。
だって・・・』
『量子変速能力者 異能力者 介旅初矢しか容疑者が残らないんです。』
「けど、爆弾事件を起こすことが可能な能力強度は大能力者から、か」
『・・・・・・垣根さんは短期間で能力を一気に伸ばすことってできると思いますか?』
瑠雨は生まれた頃から超能力者であり、多重能力者だったのでそこらへんの知識には疎い。
常識的には不可能だとは頭ではわかっているのだが何分人間は時により不可能だと思われていることを成し遂げることが希にある。彼が生まれた可能性も奇跡故であることそれもまたその希な人間の可能性であることを十分に理解しているからこその質問だった。
「んー、そりゃあ脳とか身体とか研究者に弄り回されて成功さえすりゃあ通常よりも遥かに向上は望める・・・が」
『だったら”闇”(コッチ)に情報が少なからず入ると思うんですけど・・・』
その結果が、0件・・・なんですよね。
と瑠雨は言葉を吐き出してため息をついた。
垣根も同様で近くのソファーに腰掛ける。
『それに・・・・・・・』
「んーまた第三位が関わりそうで心配だって?」
まだなにも言ってません、と言葉を吐く瑠雨に垣根はケラケラ笑った。
「ばーか。
お前の考えてることなんて筒抜けなんだよ。」
『・・・少し複雑な心境です』
垣根は静かに願う。
願わくば、彼が悲しむようなことがないようにと。
別に味方をするわけじゃない、しかし瑠雨が望んでいる願い
第三位が無事に光の差し込む世界の住民で親友たちと笑い続け、瑠雨がそれをいつまでも穏やかな表情でそれを見守っていられる様にと。
そして、瑠雨が早くこの「スクール」という暗部の檻から解放されるようにと。ただただその願いを、ごまかすように垣根は目を閉じた。