残酷な運命を抱えた奇跡の超能力者の望み

□最悪の
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8月16日

先週木山の生徒達が美琴の活躍で目を覚ましたことを知らされ、安堵の息をついた日々は一気に打ち砕かれた。

瑠雨は1万の自らの妹達と兄である一方通行の連絡を受けて愕然とした。


姉である美琴が妹達の存在を知った上に、布束砥信と遭遇晩、昨日9982号と遭遇したことその夜一方通行と対峙しその後施設の破壊行動を開始、が判明したのだ。

『・・・・・・お姉様が・・・お兄様と・・・』

嫌な胸騒ぎはしていたと瑠雨は思った。ただ、ここまでだとは思わなかったと。

まさか姉が兄へ攻撃を仕掛けるなどと。実験を目撃するなどと。


瑠雨は認めたくなかった。
そして、恐怖心と後悔が襲う。

姉は兄に敵うわけがないということを十分すぎるほどに理解していたから。


そして妹達に関係した施設はあと2基。
恐らく闇が、暗部が動くだろう。
計画の指揮者がこのまま犯人を逃すことはありえないのだから。
そして恐らく、指揮者は破壊行動を起こしている犯人の正体に気付いている。

物分りのいい生まれ持った優秀な脳は嫌でも状況をキレイに把握した。
それも残酷すぎるほどに。

嫌でも体が震え、自らの腕を自分を守るように体の震えを収めようと専念した。

姉に闇を見せてしまった。
兄を闇に引きずり込んでしまった。

その後悔の念が容赦なく、瑠雨に叩きつけられた。


『ッ、』


瑠雨は急いでスクールの上司に連絡を取った。

『すみません単刀直入に要件を言わせていただきます。、最近俺たち暗部側へにも頼られる大規模な施設破壊活動事件、起きてますよね。

ソレ、俺たちにやらせてもらえないでしょうか』


《一歩遅かったねー。

アイテムが先に引き受けたらしい。》

『な、』


アイテム?

あそこには学園都市第四位の、原子崩しが・・・。

瑠雨は血相を変え、机を叩く。
もし、第四位の麦野沈利と恐らく体力を消耗しているだろう姉の御坂美琴がぶつかればどうなるかは明白だった。

『ッ、アイテムと、交渉していただけませんか。・・・もし、こちら側に依頼をよこさない場合、俺は・・・”アイテム”に牙を向く』


《分かっているのか?
上層部が指名した暗部組織「アイテム」から依頼を回してもらうことは不可能に近く、その「アイテム」と対峙するということは、学園都市上層部の意志に反するということ。

つまり・・・消されるかもしれない可能性が生まれてくる。そうなれば・・・こちらにも、被害が出る》

瑠雨がカタンと席を立った。
かと思えば、電灯を始め、窓ガラスが一気に割れた。
各々がそれから身を守った。

その後に辺りに紫電が走ったのが垣根と心理定規の目に映る。

「ちょっと、危ないじゃない」

つまり迷惑だ、そう言おうとした心理定規が言葉に詰まる。
瑠雨は酷く冷たい目で目の前のパソコンへと目を向けていた。

心理定規や垣根が瑠雨から感じるは憎しみと哀しみと大きな”迷い”と”殺意”。

『勘違いしないで頂けますか。


俺は暗部組織の人間としてじゃない。
学園都市第八位、桃都中の荷電粒子砲として、アイテムと対峙する。

そう言っているんです』


瑠雨は酷く冷たい音色でそう吐き捨てた。電話相手も一瞬息を呑むが流石第二位の相手をしていただけは有り、声の音色に同様を表さなかった。


《しつこいな。

でもまあ・・・そこまで言うならば止めない。ただし、自分の落とし前は自分でつけたまえ。

君がミスをした時点でこちらは君を”切り捨てる”》


それと同時にパソコンがショートする。それを見届けた心理定規がため息をつき、垣根に視線を向ける。

つまりは、”何とかしろ”ということだ。垣根はそれにため息をついて、瑠雨の襟首を掴んで自分の隣に座らせた。

『っ!?』

「なーに、イライラしてんだよ。
お前らしくもねえ」


そう言って慰めるように瑠雨の頭を一定のリズムで2、3回軽く叩いたあと、いつもの調子で髪をかき乱した。いつもは無表情・・・の中に迷惑だ、という表情を浮かべる瑠雨だが、今日は隠すことなく少し、困った表情を露にした。


もう少し、貴方の傍に居させてください。

『垣根さん。
子供扱い、しないでください』

「ばーか。俺から見たら中1は十分餓鬼だってーの」

『・・・なんか腹立ちました』

ゲシっと垣根の脛を蹴る。

「い゛っ!!て、っめ!!」

痛がる垣根を見て瑠雨は満足したように小さく微笑んだ。

が、その後に頬を引っ張られ、若干涙を浮かべる瑠雨。


だがある意味自業自得である。

「誰に何してんのかな〜〜?瑠雨くんよぉ」

『いひゃいいひゃいいひゃい!!』


垣根の手を引き剥がそうとする瑠雨だが同じ男とは言え、これから発達する中学生と発達している高校生では力の差は大きく中々引き剥がすことができずむしろ下手に引き剥がせば自分が痛い目を合うのは目に見えているためろくな抵抗が出来無いことを悔しく思った。

暫くして離された頬を摩りながら垣根を瑠雨は睨んでいた。

ねえ、垣根さん。

本当はもっともっと、ずっと一緒に居たかったです。

本当は、離れたくないです。


けど・・・・・俺には、やらなきゃ、いけないことがあるんです。


だから・・・俺が戻ってこなくても、

悲しまないでください。

いや、貴方じゃ悲しむなんてこと有り得ない、か。

と瑠雨は自嘲する。

さよならは、言わないですよ。

だから・・・あと少しだけ、あと1秒でも長く、貴方の傍に居させてください。


「でもどうしてどこまでしてその以来にこだわるのよ。そこまで仕事熱心だったっけ?」

『秘密です




それじゃ、俺行きますね。』

そう言って瑠雨は腰を上げ、垣根の髪に触れた。

垣根は驚いたように目を見開くが瑠雨は、静かに微笑んだ。

もしかしたら俺は貴方に会うために生まれてきたのかな。

なんてありえないか、と瑠雨は内心苦笑いする。


大丈夫、貴方は此処に居る。
皆が知る学園都市第二位の頭脳を持ち未元物質を有する人格破綻者で無慈悲で残忍で外道で悪党な「壊す」垣根帝督も、


極数人しか知らないだろう。
単なる人の子・・・学生であり、人のことを思いやれ、優しさを秘めている「護る」垣根帝督も。


------ちゃんと、此処に居る。

『貴方は、大丈夫です』
(俺がいなくても、貴方は貴方だから)
そう言って瑠雨は背を向けた。



「瑠雨」


不意に呼び止められ、瑠雨は振り返ることはしなかったが、足だけは止めた。

「お前が此処に戻ってこようが戻ってこまいがどっちでもいい。


けどな、”死ぬな”」


聞きたくて、聞きたくなかった言葉が、瑠雨を揺るがせた。

『貴方は------本当に最低な・・・』






そう言い残し、瑠雨はその場から姿を消し、寮へと戻った。



垣根は、それを見送って、


「どっちが、最低だよ・・・」
(いや、最低に変わりはない。
戻ってきて欲しいという願いと、そのままどこかで笑っていて欲しいという欲張りな雑念があるからか、

俺は・・・それほどまでにお前に惹かれていた、のか?)


と呟いた。

心理定規はただただその垣根の様子を見て目を細めた。















『俺は・・・』

妹達の兄として、闘う。


この街と。

ふと瑠雨の脳裏に静かな声が響いた。

”死ぬな”

それに瑠雨は小さく笑みを作った。

『垣根さん・・・やっぱり、』

貴方は------本当に最低な・・・”天使”です。
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