マガジン系夢への水鏡

□孤独な天使
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「離して…離して下さい!」
赤屍は、たまたま"HONKY TONK"に向かう途中に通りかかっただけだった。
不意に、聞いたことのあるような声が、耳に入る。
そちらへと興味本位で向かってみた。
近付くにつれて、赤屍は気のせいだったと。
少し似ていただけなのかもしれない、そう思って一度は引き返そうとした。
しかし、赤屍はやはり、そちらへと向かっていた。
似ていると思った声の主が、どのような人物なのか。
そして、何よりも。

先ほどまでしていた仕事が、邪魔者が一切現れなかったから。

詰まらない仕事だったから。

何かを、人を切り刻みたくて。

さらに近付いていった。


カラー…ン…。
「コレは…白杖?」
赤屍が何かを蹴飛ばして、それを見る。
それは、目の不自由なものがもつ、白い杖。
そしてすぐ隣に落ちている、色の濃い女性物のサングラス。
赤屍は近くに"HONKY TONK"があるため。
その先に居るのが、冬木士度の盲人の恋人、音羽マドカだと、そう思った。
ビーストマスターに、恩を売ってもいい。
そう考えて、赤屍は少女を襲う男たちを引き剥がし。
少しはなれた位置へと連れて行き。

その男たちを思う存分切り刻んだ。


「大丈夫ですか?」
声を掛けてみて、その少女が音羽マドカでないことに気付く。
一度雑誌の写真で見た事があったから。
音羽マドカは、漆黒の髪に、漆黒の瞳を持つもの。
しかし、助け起こした少女を見てみると。
薄茶色の長い髪に、黄色と黒の、ヘテロクロミアの瞳を持つ少女だった。
その瞳は、真知子の顔を際立たせるための道具に、赤屍は感じていた。
前を見る、綺麗な眼差し。可愛らしい、少女の顔。
まるで、人形のような少女。
「あ…ハイ…ありがとうございます……」
少女は赤屍を見て、可愛らしく微笑む。
そして、直後に地面に這い蹲って、手探りで何かを探していた。
「杖、とサングラスでしょうか?」
「あ…ハイ」
赤屍はそう告げて、先ほど拾った物を、少女の手を取り持たせる。
「先ほど拾いましたが、コレ、でしょうか?」
「あ、ハイ!そうです…!有難う御座います!!」
そう言って、少女は満面の笑顔を浮かべる。
しかし、不意に少女の表情に影がさした。
赤屍の手を握り、不安そうに見上げる少女。
「あ…っあのっ…お怪我を、なさってしまいましたか!?血の、血の匂いが…」
心配そうに見上げる少女の表情で、口を開く少女。
その言葉に、赤屍は一瞬顔を顰めるが。
すぐに笑顔に戻り、言葉を紡いだ。
「いいえ、私の血ではありませんよ、貴方を襲った者たちの血でしょう」
「そう、ですか…。良かった…。お助けくださった方が私の所為で…怪我をなさったのかと思いまして…。
あっ、でもその方々は大丈夫なのでしょうか…」
そう言って、少女は振り返る。
その少女を見て、赤屍はクス…と笑みを漏らしていた。
「おかしな方ですね、自分を襲った者たちを心配するなんて…」
「…変、ですか?でも、私が勝手に出歩いてしまったから…」

一瞬キョトン、とした表情で見上げる少女。

しかし、その表情はすぐに打ち消されて、悲しそうな表情を浮かべていた。
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