マガジン系夢への水鏡

□人魚姫
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昔々、人間に恋した人魚姫が居ました。
禁じられた恋に落ちた人魚姫は、海の魔女の力を借りて、声を犠牲にして人間になります。
その魔法は人魚姫が王子と結ばれないと、死ぬ事になってしまうのです。
決心して、人魚姫は人間となりましたが、王子には既に婚約者が居ました。
二人が正式に結婚する前に、人魚姫は王子に愛されなくてはなりません。
人魚姫の姉たちは、妹を不憫に思い、何とか人魚姫を死から遠ざけようとしました。
海の魔女に頼んで、呪いのナイフを手に入れたのです。
そのナイフで、王子の胸を貫けば人魚姫が死ぬ事は無いのです。
人魚姫はそのナイフを手に、王子の眠る寝室へ忍び込みました。






少女は只、歩いていた。
漆黒の長い髪を持ち、淡い水色の瞳を持つ少女だった。
何処に行きたいとか、別に目的があったわけじゃない。
いや、目的は在る事は在るが。
今現在に於いて、これと言った目的があるわけではなかった。
いつものように、海辺で歌を唄い、月を眺めて。
今日は満月で、その夜は魔法がかかる日だったから。
裸足で歩いて、不意に声を掛けられる。

「お姉さん、何処行くのぉ?」

若そうな男の声。
その声に少女は振り向いた。
「そんな格好していたら、風邪引いちゃうよ?
……俺も寒いんだぁ、二人で暖めあおうよ」
そう言って、少女の手を引く。
少女はその言葉で、自分の姿と男の姿を見比べていた。
少女は水着と上にパーカーを羽織っている。
男はTシャツとジーパンを着ていた。
「……この格好、変?」
少女がそう尋ねると、男はニヤケながら口を開く。
「変じゃないよ?でも、こんな夜に一人で泳ぎに来たのって……ナンパ待ちなんだろう?」

……ナンパ?……メンドクサイ……。

そんな事を考えていたら、男はさらに強く手を引いて。
どんどんと、車道へと向かっていく。
夜遅いだけあって、車の通りは少ない。
そんな中、男は自分の車へと向かって、少女を連れて行こうとした。
「……離して。まだ海から離れたくない」
そう呟いて、少女はその手を振り払う。
しかし男は怒りながら、再び少女の腕を掴んできた。
「うるせぇよ!大人しくついて来いよ!」

……何逆ギレしてるの?コイツ、バカ?

そう思った瞬間。
凄い勢いで少女たちの横を車が駆け抜けて行く。
「あっぶねぇなぁ、ちゃんと前見て運転しろってんだ!」

……コイツ、マヂでバカだよ。女を拉致ろうとするヤツが……人の事言えるの?

そう思いながら、手を思い切り振り払って、車道の向こう側に移動した。
男は慌てて少女を追いかけて来ようとした途端。
先程と同じ様に、今度はトラックが思い切り突っ込んで来る。
そのトラックは道路の真中に男が居ることで、スピードを少し落とす。
少女はそれを見て、トラックのコンテナに掴まって乗り込んだ。
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