story*

□ラストストーリー
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 その次の日も次の次の日もヒョンスンが学校に来ることはなかった。
 ヒョンスンが次に学校に来たのは始業式から一週間後の雨の日、ジュニョンは声をかける事ができなかった。休んでいた一週間の間にクラスの中で、ヒョンスンを不思議がり軽蔑する噂が流れ始めていたからだ。クラスからはみ出ることを恐れ自分の身を守ろうとしたのだ。
 それからというものヒョンスンは、休んでは来てを繰り返した。
 そして、クラスのほとんどがヒョンスンの存在から目を背ける中で、ジュニョンは反対に興味がどんどんと沸いてきていた(この好奇心こそが後々二人の運命に大きな歪みを生むことになる)。ジュニョンは子供の頃、人が怖がる幽霊や怪奇現象を好んでいた、大人に近づくに連れその嗜好は周りから孤立するものをほうっておけない心に変わっていたのだった。
 二学期はじめの一ヶ月を終えるとジュニョンはヒョンスンの登校する日に1つの規則を見つけた。ヒョンスンは雨が降る日に必ず学校に来るということだ、初めは偶然かと思っていたがこうも連続すると偶然とは思えない。
 確信を抱くとともに、ただその真意が知りたい。この不可解な行動が何を示してるのか突き止めたい。好奇心は探究心になって、もうジュニョンの中でヒョンスンは危険人物ではなく子供の頃追いかけた幽霊のような存在になっていた。


◇◆◇◆◇


 二人の運命の歯車が狂うきっかけになったのは、文化祭の二週間前。
 学校から下校している途中にジュニョンが教室にケータイを置き忘れたことに気がつき、取りに帰った日。

 夕日の差す教室が並ぶ廊下を歩き、ジュニョンはいつもどうり教室の扉を開こうとした。しかしその手はとまってしまった。扉についた窓から文化祭の計画を書いた黒板を眺める茶色い頭が見えたのだ。ジュニョンにとってその人物が誰かということは安易に想像できた。そして根拠の無い規則を信じ、晴れの日だからと油断していたジュニョンにとって思いも寄らない遭遇だった。
 不意にヒョンスンが振り返り、慌ててジュニョンはドアの影に隠れた。ヒョンスンはゆっくりと自分の席に近づき座る。しばらく教室中を眺めてから涙を一筋溢した。その行動に動揺したジュニョンはドアに足をぶつけてしまう。ヒョンスンは、涙を拭き尋ねた。
「誰?」
 とにかく不審に思われないように、ジュニョンは平然を装いながらドアを開いた。
「ジュ…ニョン君?」
「お、おう」
 ヒョンスンも思わぬ登場人物に動揺を隠せないでいた。
 
 しばらく沈黙が続く中、ジュニョンは口を開いた。
「なにしてたんだ、なんでお前…」
 気持ちだけが焦ってしまい、声色が強くなる。もっとやさしい聞き方が出来ないものかと、心で突っ込みながらジュニョンは返答を待った。
「お別れを言いにね」
 想定外の返事に返す言葉を考えられないで、ただヒョンスンを見つめているとジュニョンはあることに気づいた。
「ヒョンスン…お前、カラコンしてるのか」
 ジュニョンの心の声が外に漏れだし、ヒョンスンは目をそらした。
 ジュニョンは見つめながら、始業式に公園で会ったことを思い出していた。そのとき、至近距離で見たヒョンスンの瞳が深い赤茶色だったことを思い出したのだが、しかし目の前にいるヒョンスンは真っ黒な瞳だった。
「ジュニョン君って、目がいいんだ」
「いや、そうじゃなくて。前は目が茶色かった気がしたから」
 自分の思っていた原因ではないジュニョンの理由にひどく感動した。今まで自分のことを覚えてくれている人に出会ったことが無かったからだ。
「それとさ、ひとつ聞きたいことあるんだけど」
 ジュニョンは勢いに任せて、あの規則について聞くことにした。
「なに?」
「なんで雨の日にしか学校に来ないんだ?」
 少し間が空いて、ヒョンスンは口を開いた。
「ジュニョン君、ここに座って」
 前の席を指差し、手招く。ジュニョンが席につくのを確認してから
「君になら、話してもいい気がする」
 おどけているようで、でも儚げにヒョンスンは話し始めた。改めて近くで見たヒョンスンは綺麗という単語では表しきれないもので、若干の冷気まで伝わってきた。
 ジュニョンは、そんなヒョンスンがあまりにも悲しそうな顔をするものだから、聞いてはいけないのかと不安になった。
「ちょっと待て。それは、本当に話していいことなのか?」
「いや、僕にもわからない、でも…話すべきなんだと思う」
 すべき、か。ジュニョンはその言葉を聞いて改めて身構えた。
「わかった」
「うん、本当に驚かないで聞いてほしい」
「?・・・あぁ」
「実は僕」





二人の運命が交わった、夕日の眩しい教室
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