story*

□BP
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‘今日が最後であるように一日を生きてゆけ’






いつの日か君はそんなことを言った。そんな君が俺より先にいこうとしてどうする。








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君という光が霞んだ、あの瞬間を、今でも鮮明に覚えている。



いつものように音楽番組の事前収録に行くときだった。移動途中の車で、マネージャーから
「TV局の近くに通り魔が出たらしい。今はまだつかまっていないそうだ、どうする帰るか?」そう言われた。メンバー達は「どうせ、すぐつかまるよ〜」「うんうん、っていうかわざわざTV局なんて人の多いトコに来ないでしょ。」なんて言って、帰ることを拒否した。もちろん俺も同意した。

本当は、このときに帰ろうと言い出すべきだった。
通り魔という、未知の存在を、もう少し警戒しておくべきだった。


TV局の裏に車をつけ、扉を開け外に出た。するとすでにファンが出待ちをしていた。いつものように、笑顔で挨拶をしながら入り口へ歩みを進める。

ふと後ろを見ると君がファンを抱きしめていた。













いや、抱きしめているように見えたのか。








ふわりと膝から崩れ落ちる君、その瞬間に目に飛び込む









赤と黒









悲鳴とも歓声ともとれるファンの声が空高く響き、カラスが鳴いた。










ファンは道路に横たわる君に群がり、警備員は奴に向かって走り。










俺は、その5秒とも満たないシーンを、ただ呆然と見つめるだけで。










君が人の壁に遮られ完全に見えなくなった時、「ヒョンスニ!!!」という叫び声が後ろから聞こえた。立ち尽くす俺の肩を押しのけ走っていく背中が二つ、「ぃ・・・ぃ・・・」と、言葉とはいえない音が隣に一つ、「救急車だ!!早く!!!」とケータイに叫ぶ横顔が一つ。

状況は、怖いほどに簡単に把握できたよ。












君が、ファンに紛れた奴に刺された。













俺は無意識に、ファンの波を掻き分け必死に君の元に走った。波の先に見えたのは、ドゥジュンの膝の上で服を赤く染め、目を虚ろにし、不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、薄く微笑んだ君。「あーあーあー」力の抜けた手を握る、ぎゅうと握り返したかと思うと「あーあーあー」スルッっと砂のように俺の手の中から「あーあーあー」滑り落ちていった。その間「あーあーあー」とうるさい声を発する奴がいるなと思った。


俺だった。今、考えてみてもまったくわからない何であんなに子供みたいに鳴いてたんだろうか。ほんとうに情けないやつだよな、俺は。


必死に手で血の出所を押さえても、抑えても、おさえても、自らの手の下に血が流れる感触がなくなることは無かった。きっとあの感触は忘れることはできないんだろうな。この手の下で、君の鼓動が消えてなくなっていく、そんな感触。



何時間ぐらいの間だったんだろう。いや、きっと数分間だったんだろうけど、俺にとっては永遠とも一瞬とも呼べないぐにゃぐにゃとした時間だった。徐々に閉じていく君の目が、色を無くしていく君の唇が、怖くて怖くて、メンバーが皆してぼろぼろに泣いてたな。

いつの間にか来てた救急車からレスキューが降りてきて、俺たちは君から引き剥がされた。ヨソプは宝物を奪われそうになってる子供みたいになかなか離れなかった。けど、最後にはドゥジュンに抑えられて、君は連れてかれて、そのとき、いろんなことを考えたよ。君はもう戻ってこないんじゃないか?なんで、こんなことになってるんだ??きっと、あいつらもそうだったと思う。それからはよく覚えてない、気づいたら、楽屋の化粧台の前にいた。





ガンッ―



誰かが壁を殴った音からは覚えてる。
「・・・あぁ!!!クソッ!!なんだよ、なんでだよ!!」
ヨソプがブツブツ言いながら、楽屋を歩き回ってた。
「ヒョン、ヒョンスニヒョン、助かり・・・ますよね?」
涙をいっぱいに溜めながら、隣に座ってたドンウンが尋ねてきて。
「お、おぅ・・・あたりまえだろ。」
なんとなく、そう答えた。
「はは、ですよね・・・」そう苦笑いしながら、ドンウンは俯いた。
「あんな状態だったのにか!??助かるわけねぇだろ!?」
ヨソプがバンバンに腫らした目で睨みつけてきたよ。



バシッ―


なにを思ったのか、ギグァンがヨソプを叩いたんだ。
「何言ってんの。なんでお前が信じてやらないんだよ。ヒョンスンはそんな弱い奴じゃない。」
いつものようなあのふわふわした笑顔はそこにはなくて、ヨソプを叩いた右手はギチギチと音をたてるように腰の横で強く固く握りしめられていた。

「ごめん、俺、気がおかしかった。」そうヨソプはソファーに座り込んだ。















ガチャ―

「お前ら。着替えろ。」
どこかに行っていたのか、ドアから現れたドゥジュンが俺たちのいつも着ている服とタオルを床いっぱいに広げた。そのとき、化粧台の鏡をみたら、服に血がついたままだった。それに気づくと同時に妙に生々しい匂いもわかるようになった。きっとこの人生で一番、嫌な匂いだ。
ピリリリリ…とケータイの音がして、ドゥジュンが「よぼせよ・・・、はい、ね・・・。わかりました。・・・今から、病院いくぞ。はやく着替えて、準備しろ。」そう言った。


きっと、搬送先の人からの電話だと思う。


けど、ドゥジュンは君が、生きているとも死んだとも言わなくて。


それが無性に、苛立った。なにか、弄ばれてるみたいだったから。でも、結果を聞きたいとも思えなくて。そんな弱い自分に苛立った。







移動中、メンバーは誰一人として、喋ることはなかった。だけど、全員が君の生を祈っていたのは空気を通して伝わってきた。


そのまま病院についた。病院前には、カメラが数台。リポーターがカメラに向かってなにかを話していた。






手術室の前に待機させられることになった。そこにはヒョンスンのご両親もいて、みんなで、抱き合い涙を流した。手術中の赤いランプが消えると、ドアの向こうから先生が出てきた。


「ヒョンスンさんは―」
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