story*

□好きになれないのは
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「今日はさあの振り付けの部分抑え目にするね。」


あの振り付けって言うのは、私の体をぺたぺた手のひらで触っていく部分のこと。
「ペタペタはやめて腰に手を当てる程度にするから。」
こんな感じで!と私にしてみせるオッパはなんだか楽しそうだった。
そんな楽しい振りだったかな?

それにしても、オッパがそんなこというなんて、さては何か言われたんだ。
ふふ、聞いてみようっと!

「オッパ、なんで抑え目にするの?ファンが悲しむから?」
「ん〜。まぁそんなとこ〜」
ヘラっと笑ってごまかされた。
"ファン"が悲しむから・・・か。それって!・・・まぁいいや、もうすぐリハーサルが始まるし今は集中しないと!!

「トラブルメーカーさん!スタンバイお願いします!!」
「「は〜い!!」」






イヤホンやヘッドフォンで聞く音とは違う。
ドンドンと胸を高ぶらせるサウンドに身を任せて、踊り始める。
さっきヒョンスンオッパが私に言った振りの部分になった。
ゆっくり添えられるその両手にゾクゾクッとして、一瞬振りを忘れそうになる。
これがオッパの魅力かな、なんて思っている間に収録は終わった。


「オッパ〜!おつかれさまでした。今日の私どうだった?」
「ふふ、とってもセクシーでかっこよかったよ」
そう笑って答えてくれるオッパに不意にドキッとした。
でも私は知ってるの、オッパが誰のもので誰がオッパのものか。

MVを撮影してるときもそう。キスの間もオッパはあの人のことを思い浮かべてた。
私もオッパの意識の中に入ろうと努力してみたけど無駄だったみたい。
オッパのことは好きだけど、好きな人としてみることはできなかった・・・。
それはいつもあの人の温もりや匂いがオッパを包んでたからかな?
変な話、キスの何回かはあの人としてるようにも感じたんだよね。
それぐらい移ってるってこと、オッパは気づいてるのかな?




「ヒョナ?もう帰っていいよ?俺はこの後、用事があるから。また明日ね」
「うん!おつかれさまです。じゃあお先に!また明日!」

また明日って、なんだか歌ってる曲が曲なだけあって複雑。
オッパはあの人に会いに行くのかな?ああ、私もそんな人がいればな〜。
いい!あとでメンバーに慰めてもらうもん!!


そう思いながら車に乗り込む、少し肌寒い季節。

















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「ほら、抑え目にしたでしょ?」

「うん・・・。」


何その煮え切らない顔、お前が触りすぎって言ったくせに!

「寒いな〜」

こうなりゃ必殺甘えたちゃん攻撃だ!!わざとすり寄ってみる。

「お前って男なんだな、やっぱり」
「え?」

いや、なんでもないよ。そう言うとおでこにキスをして頭をなでてくる。
不意に言われたその男という単語になんだか引っかかった。



そっかジュニョンは俺がヒョナと絡んでることに嫉妬してるわけじゃないのか。
俺がジュニョンの前とは違う顔して、男女っていう世間に認められる愛を表現してることに嫉妬してるんだ。

性別なんてどうでもいいのに

それにジュニョンとの愛なら堂々とみんなに見せられるよ?

だからそっけなくしないでよ。お願いだからそんな、悲しい雰囲気作らないで。


「ヒョンスン?」
「え?・・・」

気づけば瞳から溢れる涙
こんなつもりじゃなかったんだけどな。
ジュニョンとただ笑ってすごしたかっただけなのに。


「なんで泣くんだよ?どこか痛いのか?」

痛いよ痛い。ものすごく痛いよ、心がね。




ジュニョンは俺を好きじゃない。

チャンヒョンスンっていう外見が好きなだけで。


本当は俺が





女だったらよかった





って、心の底でずっと思ってるんだ。本人も気づかない奥底で。



今、分かった。


ジュニョンが俺を好きなれないのは



俺が男だから―

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