ココロ

□2. 妖精は優しくない。
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つい先程許容の精神とは言ったものの、これは想像していたことの斜め上だった。
もう何がなんだかわからない。

とりあえず私の中に芽生えた素朴な疑問を投げかけてみることにした。


「……誰?」

「ご機嫌よう。わたくしはリングの精」


きらきらと光る綺麗な服を身に纏った妖精は、にこりと微笑んでそういった。
この世界には妖精もいるのか。

凝をして妖精のことを見てみると、どうやらこの妖精は念能力ではないようだった。


「貴女が私をこの世界に連れてきてくれたんですか?」


今の所連れて来ることができそうなのはこの妖精しかいない。
彼女は念ではないようだし絶対におかしい。
しかも出てきたのがこのタイミングだからそう考えるのが自然であろう。


「……はい、優しいわたくしが連れてきてあげたのです」


くるりとまわりながら誇らしげにそういった。
動くたびにミニドレスの裾がふわふわと動いて可愛い。


「今はまだ帰りたくはないけど、帰る方法はあるの?」


帰りたくなった時のことを考え一応聞いてみる。
帰る気などさらさらないけど。ええ、ありませんとも!


「もちろんありますよ。
あなたのなかのなにかを取り払えば良いのです」


なにかってなんだよ!ヒントを出しているようで、これはノーヒントだ。これでは一生帰れない。


「あなたは、つまらない道を歩んでいらっしゃいました。ですから“優しい”わたくしは貴方にチャンスをあげたのです。自分とちゃんと向き会ってそして、大切なものを取り戻してきてくださいね。あと、その強大な力もわたくしが与えた物です。ちゃんと感謝するのですよ?」


いやいや、初対面の妖精に私の人生どうこう言われたくないわ!
強大な力…?走ってる時だって普通だったし、キックを入れた時だって変わりなかった。何を言ってるんだこいつ。
先程から思っていたが、この妖精...


「あ、はい。でもさ、こうやって連れてきてもらったってことはなんかしなきゃダメとかないの?」

「そういうシステムはないので安心してください。ちなみに、このリングに念をかけるとわたくしを呼び出すことができますよ?」

「うん、わかった!わからないことがあったら聞いてもいいんだよね?早速聞くけど、私の所持品ってこれだけなの?」


さすがに何もないのは困るのでそう尋ねると、「そうですよ?」となぜそんなことを聞くのだろうというように妖精は首をかしげる。


「そうですよって、え?お金とかは?」

「自分で頑張ってください?」


こ、これは…新手のいじめ?


「え?そういうのって出してくれないの?生活できない」

「貴方をココに連れてくるのも大変なんですよ?ココに来れただけラッキーじゃないですか。何かと出すのもめんどくさいし…」


はぁ、とため息をつき、彼女は眉間にしわをよせる。
いやいやいや、ずっととは言わないからせめて生活が出来るようになるまで面倒を見ておくれ。


「待って!今めんどくさいって言った?こっちに送るなら送るでちゃんと「貴方がわかるところに連れてきたんですから、記憶を辿って頑張ってください」

「えっ、ちょまっ‼」


待ってと言い終わる前に自称リングの精は消えてしまった。


「嘘だ…」


やっぱりこの妖精、扱いが大変なやつだ。
できればなるべく関わりたくないが、残念なことに今頼ることのできるのはあいつだけだ。
私はこれからどうすればいいのだろうか…
私が思うに普通は生活できるまで面倒を見てくれるシステムのはずだ。
それがどうだ。私はそれがない。野垂れ死にしろと申すか。


これからどう生きていけばいいんだ。と頭を抱えていると、妖精がリングに念かけると呼び出せると言っていたことを思い出した。


念をかけるってこう…かな?とよくわからないままやってみると、またリングが光りだした。


「おお!本当にでてきた!ねぇ!なんでもいいから少しでいいから助けをください…」


頼れるのはこの妖精しかいないので縋るような目を向ける。


「うーん、めんどくさいな。この設定なしにすればよかった」


あくまで私の話を聞く気はないようだ。
この世界の事を何もわかっていない私が突然ほっぽり出されたら本当に生きていける気がしない。
現にさっきも危ない人達に襲われたばかりだ。

連れてくるならせめて治安のいい場所に出して欲しかった。


勝手につれてきたのは妖精さんなのに。
さすがにこんな治安のところで野宿も怖い。助けをください。少しでいい。少しでいいから生活費をくれ。


「しょうがないな、じゃあいいこと教えてあげるわ?あなたの統系、全部100%だから」と1番教えて欲しくない情報を吐き出して消えていった。


水見式を楽しみにしていたのに…と思いながらも、ぶっきらぼうすぎる口調の妖精に対して憤りを感じる。
イライラしながら行く宛もなく歩いているとふと、ひとつの考えが浮かんだ。
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