ココロ
□10. 私は何も悪くない
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「ついたよ」
すくっと立ち上がり、手を引かれる。
ああ、強制的に連れて行かれる。
なすがまま、飛行船から降りると目の前には試しの門が。
「わあ、大きい門…」
思わずそんな声がでる。
こんなにはやくこの門を拝むことになるなんて夢にも思わなかった。
観光に来てみようとは思っていたけれど、まさか中に入るだなんて思ってもなかった。
「試しの門って言って1の扉は片方2トンくらいだよ。ひとつ数が増えるごとに重さが倍になるから」
私の頭の中にしっかりと残っている情報をイルミが教えてくれる。
ん?これは開けろとか言われるフラ…
「じゃあ頑張って」
「む、無理ですよ!」
フラグ回収入りました。こんなの無理だよ。この前まで一般人だったのに…
自分の身長の何倍あるかわからない門は見上げるだけで首が痛くなる高さがある。
それにその重さだってトン単位だ。馬鹿か。
「頑張れ」
なんだこの人。何ゆえ私が開けられると思った。開けられなかったら殺されるよね。
死亡フラグががっちり立ったところで少し足掻いてみようと私の頭脳を働かせる。
もちろんいい案なんて出てくるはずがなく、ストレートに伝えることにした。
「イルミさん…行ける気がしないんですけど…」
「まぁ、とりあえずやってみてよ」
出来ないと言ったのに彼は聞く気がないみたいだ。
聞いてくれないと悟った私は腹を括ることにした。
試しの門に手を当ててふうっ、と深く息を吐く。
力を入れるよ。さよなら世界。
ぐっと両手に力を入れたとたん、また右手のリングが光だし、左手では2の門まで、右手では7の門まで開いて…って言うか1の門が外れました。
確かに、私がこの扉を開けられなかったら私への興味は薄れて殺られていたかもしれない。
だとしてもこれはない。
ゾルディック家のセキュリティがガバガバになってしまったではないか。
これはこれでやばいぞ。殺られるぞ。
血の気が引いていくのが分かる。
何事にも限度というものがある。
ちらりとイルミさんの方を盗み見ると、彼もこうなるとは思っていなかったようで大きい瞳をさらに大きくしていたが、それも一瞬ですぐポーカーフェイスにもどった。
「あっ!ごめんなさい!右の門が‼」
私の所為じゃないというところが憎たらしい。
これで殺されたら妖精に殺されたも同然だ。
「なんで右だけあんなに力が出たんだろうね」
自分だけの力で2の門まで開けられたことに驚きながらも、余計なことをしてくれた妖精の羽を引きちぎりたい衝動に駆られる。
「あっ少し時間もらってもいいですか?」
「いいけど…」
パタパタと道の端の方に行ってリングに念をかける。
そしてリングが光り出し妖精が出てきた。
「ねぇ、さっきの力って…」
「困っているようだったので、力を貸したんですけど、どうかしましたか?」
「いや!右だけっておかしいでしょ!右の門壊れちゃったよ!」
「えっ…」
そんなことは予想していなかったようだ。この門を壊したのは私だけど私じゃない。ああ、なんか泣きたくなってきた。
妖精は一瞬だけ焦りを酷く感じられる表情をしたように見えたけれどこいつの事だ、私の心配などミリもしていないだろう。
「本当に気にしなくていいから」
後ろから声が聞こえ、驚いて後ろを向くとイルミがいた。
「この門開けたんだから屋敷まで行くよ」
ひょいっとかつがれ、地面が遠くなる。重いからやめていただきたい。
「私走れますよ?」
「走るから静かにしててね」
とことん人の話を聞いてくれないイルミさんに仕方なく身を任せ、これからどうしようかということに頭を働かせた。