非日常のとビら

□16日目 さばいばるD
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焚き火の光が届く範囲は広くはない。
暗ければスマホのライトを使えばいいだろう。

洞窟内は自分の足音が反響して楽しかった。
ヒールを履いていたならきっともっと楽しかっただろう。

私の頭の中には恐らく小学2年生が住み着いていると思う。
楽しいのレベルが低い。
そう考えると私はとっても幸せな人間に思えてきた。

辺りはすっかり真っ暗でスマホのライトを付けようと歩きながらポケットを探り取り出した所で今まで歩いていた地面が消えた。


「うぎゃあ!冷たい!」


じゃぷんという音と共に驚いた拍子に尻もちをついてしまったせいで腰までびしょびしょになってしまった。

私の声と水しぶきの音は洞窟内に響き渡り。イルミが私の方に向かっている足音が聞こえた。

まさか奥に水が流れているだなんて。
スマホはちゃんと手に持っている。
これは防水だから水に落としても大丈夫だけど、こんな所に落としたら探すのが大変だ。
なくしたことがバレたらお母さんにシバかれるところだった。
スマホのライトで辺りを照らしてみると私が使っているここは小さな湖に見えるが、水の流れを感じることからこれが大きな川のようだ。


「ちょっとココナ何してるの」

「あっ、ギタラクル」


脇下に手を差し込まれてざぷりと水から引き上げられた。


「ちょっと寒い」

「まさか落ちるとはと思わなかったよ」

「私もまさか水が流れているとは思わなかったよ」


外気温度が暖かい訳ではないため、張り付く衣服から体温が奪われていく。


「イルミが濡れちゃうから離して?」

「ココナ1回服脱いだら?リュックの中にタオルとか入れてあるしもういっそのこと川で体を綺麗にするのも手じゃない?もう既に水びたしなんだし」


確かに水は貴重だ。いくらシートで拭いていたって実際に水で流すのとは全然違うだろう。


「そうだね。これ焚き火の近くに干しておいたら乾くかな」


靴は水を吸ってしまって歩く度に水が染み出てくるだろう。
こんな靴は履きたくない。


「近くに干しすぎて燃やしたら笑うよ」

「ちょっと不安だからイルミが干してよ。降ろして脱げるところまで脱ぐから」


靴とスカート、トップスを脱いでイルミに渡す。
渡すと言っても彼が私の手から受け取ってくれた。
真っ暗だから至近距離じゃないとイルミが何処にいるかわからなくなるから助かる。
下着だけになると洞窟内に吹く風が異様に冷たく感じた。


「ちょっと待ってくそ寒い。川もだいぶ寒かったよ」

「すぐにやっちゃえばどうということもないよ。タオル持ってくるね」


イルミの足音の反響が遠くなっていったのを確認してからスマホのライトで水面が何処にあるかを確認する。

今度は水面にダイブしないようにするためだ。

どうせ真っ暗で何も見えないため裸になっても何とも思わない。
ここが明るかったら絶対無理だ。外でこんな下着姿ってだけでもいやだ。
やっぱり暗闇は人を大胆にすると思う。

下着も外すと意を決して水の中に入った。
地下水なのか何なのか知らないけれど、この外気温度にしてはすごく冷たいように感じた。

ざぷりと頭を突っ込んで全身浸かると身体が芯まで冷えきったような気がした。
だがしかしさっぱりもした。
水は偉大だ。ざぷりと立ち上がると、ちょっとイルミがタオルを持ってきてくれたようだった。

真っ暗だから何も見えないけれど。


「はい、持ってきたよ。寒いだろうし早く焚き火の所に行こう?」

「うん、ありがとう」


イルミが手渡してくれたタオルで身体を拭いていてはたと気づいた。

どうして真っ暗なのに私の手の位置がわかった?
そうだ。そもそもどうして真っ暗なのに私の手にある服を受け取ることができたんだ?


「ねえイルミ。なんで私の位置がわかるの?真っ暗なのに」

「そんなの見えるからに決まってんじゃん」


……思考が1度停止した。

えっと、見える。夜目がきくという判断で間違ってはいないだろうか。
ということは、だ。
私が見えていないと思っていたことは実は丸見え?ということは今の状況も、もれなく丸見え…?

私はお嫁に行けない…


「ああ、ココナが躊躇いなく服を脱ぐからそういう事だろうとは思ってはいたよ」

「じゃあなんで言ってくれなかったの!私の中にも一応恥というものは存在してるんですけど」


彼は私をなんだと思っているのだろう…と思ったけれど、そもそもこいつが私をこの試験に連れてきた理由が理由だ。
既成事実を作られそうにはなってないから大丈夫だと思っておこう…

こんな奴と1週間も一緒に居なくてはいけないのか…
今までは家に帰ると1人だったから誰かとお喋りできたらいいのにと考えていたのに今はどうだろう。1人になる時間が欲しいと思ってる私がいる。


見られたものは仕方が無いと開き直ってタオルで水分を拭き取り、イルミの服の中に手を突っ込んでやった。

人間湯たんぽは温かく感じた。


「イルミ筋肉やべえ」

「ココナは男の身体を触る事に大しての恥じらいは無いんだね」

「やめてよそういう言い方」

「傍から見たら裸の女が男の肌を触ってるんだよ。まさかココナ」

「誘ってません」


イルミの言わんとすることを先に察知する。
でもあったかいものはあったかい。
手だけですけど。
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