非日常のとビら

□31日目 悪運
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こうなって初めて、私はみんなは犯罪者なんだと自覚した。
恨みを買うとはこういうことなのか。

電話をしているクラピカさんの声を聞きながらぼんやりと思う。
きっと彼は彼なりの正義を貫こうとしているのだろう。
こんなことになる原因を作り出したのも旅団のみんななのだから現在起こっている出来事は自業自得ともいえる。

自分でもそういう考えに至っているのに、わかっているのに、私は何故だかクラピカさんの方が悪者に見えてしまっていた。

私が聞いていた限りでは旅団のみんなは相当強いはずだ。
初めて私の部屋に現れた時もなんとか級とか言っていた気もするし、そこまでの犯罪者になるのもある意味実力が必要なのはわかる。
普段のクロロは負けず嫌いの甘味大好き人間だけれど、とても頭が良くて先のことがちゃんと見られる人だと言うこともわかっている。
今のクロロはとても冷静なのもたぶんどうするかの算段がある程度あるからなのだろう。

そんな旅団に真っ向から勝負を挑むクラピカさんは相当な恨みと執念があるのだろう。

クラピカさんは私と同じときにハンターになった。
基礎が全然違うとはいえこんなに短期間で大きな敵に挑むのは何かがあるからこそできるのかと思うと、不本意でライセンスを取ったとはいえ何もしなかった自分が恥ずかしくなる。

自分はここで何もしないままでいてもいいのだろうか。


クラピカさんは電話の向こうの相手にも、捕まえた人質にも私の存在を伝えていないことが少し恐ろしかった。

私の存在がクロロの計画の邪魔になるのなら今行動を起こさない方がいいのだろうか。
それとも電話で旅団の誰かと繋がっている状況の今、私の存在を伝えた方がいいのか。
何が最善かはわからない。
でも自分のせいでみんなの取る行動を変えてしまうのはなんだか嫌だった。

私は黙っていることにした。
センリツさんは私のの考え全てがわかっているのだろう。
私はみんなのことが大切だ。
邪魔はしたくない。

死ぬのは怖い。死にたくないけど私はこちらに干渉すべきではないから。

自分の選択を後で後悔するかもしれない。
でも私は1人で退屈に過ごしていた時よりは彼らがいてくれたおかげでとても楽しかったから、少しくらいは役に立ちたい。
みんなの邪魔にならなければ私はそれでいい。

不安なら眠ってしまおう。なにもわからないうちに事が終わるように。
死ぬなら寝ているうちの方が幸せだろう。
現実味を感じていない今なら眠ることができる。

抱きしめる物がないから少し眠りにくいな、なんて現実から目を背けながら私は目を閉じる。


結論から言うと、ピリピリと肌を焼くような空気が充満した車内で眠れるほど私の精神は図太くなかったようだ。

電話が終わった車内の空気はもう最悪なんて可愛い言葉で済むものではなく、仲間同士で争う声も聞こえる。

怖いはずなのに何故か私は自分が分裂してしまったかのように客観的に物事を考えていた。


「それが、ウボォーを殺した鎖か。ウボォーは最期に何と言っていた?」


ウボォーを殺した鎖。
ウボォーギンさんが死んでしまった?

頭の中でころしたという言葉が何度も何度も繰り返される。


ウボォーギンさんはすごく大きくて、力も強かったはずだ。
あの殺しても死ななそうなウボォーギンさんが死んでしまったということが信じられなかった。

あのクラピカさんが殺したということも、ウボォーギンさんが死んでしまったことも、今の状況も何もかも信じられないことばかり。一周まわって蚊帳の外だ。

嫌な静寂が車内を満たす。
初めから居心地がいいとは言えなかったけれど、今はそれ以上に居心地が悪い。

また電話を始めたクラピカさんは空港という名前を出していた。

私は空港に連れていかれる。
そこからどこに行くかなんて見当がつくはずもない。

私はどんどん扉から遠ざかっていく。

現実世界から遠ざかっていく。


車が止まった。ここは先程言っていた空港らしい。
この世界での移動手段は飛行船だから、私は飛行船に乗せられるのだろう。

異世界で島流しに合うなんて想像したこともなかった。

ジャラジャラと鎖の音をたてながら車から降りていく。
そろそろ腕が疲れたから1度動かさせて欲しいな、なんて呑気なことを考えているとヒンヤリとした空気とともに外の光が差し込んできた。
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