非日常のとビら
□36日目 きもち
2ページ/3ページ
腸が煮えくり返るようだ。
ココナを奪い取る気ならば、いくら常連の客であろうが容赦することなどできない。
…が、万が一クロロを殺してしまえば、ココナは希望を絶たれて心を病んでしまうかもしれない。
オレは……壊れたココナが欲しいわけじゃない。
ココナがココナであるからこそ好きなのに。
自分の針を埋め込んでココナの心を操作したところでそれじゃあダメなのだ。
望むのは、ココナ自身が………
ちくりと胸が痛み、腕にある温もりを抱く力を少しだけ強くする。
彼女と会うきっかけをくれたのはクロロだ。
そこに感謝していないと言えば嘘となる。
しかし、クロロという存在がココナの心を左右させることがやっぱり悔しくて、その血が沸騰してしまいそうな程の怒りをクロロに向けることしかできなかった。
しばらくお互いに殺気を出していたのだと思う。
いや、時間にすれば、そんなに経っていなかったのかもしれない。
ふと、腕の中にいる愛おしい存在にちらりと目をやると、慌てて殺気を引っ込めた。
クロロもそれに気付いて、オレの腕に目をやると同じように引っ込める。
ピクリとも動かないココナは確かに気を失っていて、途端に血の気が引いた。
当たり前だがココナは殺気になど慣れていない。
直接ではないにしろ、板挟みにされて強い殺気を浴び続ければ恐怖で気も失うだろう。
オレは…何やってるんだろう。
静かに胸を上下させる彼女はとても小さくて、 こんなにも脆くて弱くて儚い存在だということは、わかっていたはずなのに。
自分の感情をこんなに乱れさせるココナは罪な娘だ。
「お互いココナを離したくないならもう一度聞いてみようよ。ココナがオレを選ばないなら今回は諦めるよ」
クロロは眉間に皺を寄せたが文句は言わない。
ここはどちらも譲らないと話が進まないからだろう。
気を失っているココナをこのままにして置く訳にもいかないため、静かなところに場所を移そうと歩きだす。
ココナが身じろいだのを感じて視線を落とすと、睫毛が微かに動いた。
「ココナ?」
優しく話しかけると、ゆっくりと目が開かれてぱちりと1度瞬きをする。
「めっちゃ気分悪い……ちょっとあんた達私の事思うならもう少し考えてよ」
すっかり機嫌を損ねてしまったようで、まだ私のこと抱えてたの?そろそろ降ろしてよ。と腕から抜け出したがるため、名残惜しいが離してやった。
すこしふらつきながらもそれを悟られまいとしているココナは本当に可愛い。
「あんた達が私のこと大好きなのはよくわかったけど、過保護なくせに私のこと考えられないなら1人でいいから」
ココナは本気なのだろう。
この世界はそんなに甘くないことを知っていながら、きっと彼女は本当に1人で生きていこうとする。
かなり怒っているようで、つかつかとこの場を立ち去ろうとするココナの手を慌てて取った。
クロロも慌てた様子で手を伸ばしたところでなんとなく状況を把握する。
そうだろうとは思っていたけれど、やはり裏の情報は速いものだ。
「ごめん。余裕がなくなってた』
ココナのことになるといつも余裕が無くなるけれど、それを言ってしまうと私のせいにするの?とさらに機嫌を悪くする可能性があるので言わない。
ふん、とココナはそっぽを向いてしまったがオレの手を振り払う気はないらしく少しだけほっとする。
「私を護ってくれるなら大人しくしてる。ちゃんと私のこと考えて動いてよね」
護られないなら1人でいる方がまだ安全なんだから。と小さく呟かれた言葉は、少し寂しげだ。
…やっぱり、ココナはまだ自分は大丈夫だと思っている。
クロロの焦りようから、ココナは既に命を狙われているのだろう。
全て気付かれないように処理しているのか。
オレたちのような陰の者はやっぱり大切なものを作っちゃいけないなぁ、なんて思いながらもココナを手放す気などさらさらない。
さあ、どうココナの機嫌を直そうか。