中編
□第3話 身の回りのこと
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彼らがこの家に来てから1ヵ月という時が経っていた。
帰るための方法云々は進展がないらしく、4人は大変そうだがあまり変わったことはなかった。
家の方は全くいざこざなく仲良くやれており、なかなか楽しい毎日を送ることが出来ていると思う。
4人がいるということ以外は特に変わったことがなかったのだが、ひとつだけ変わってしまったのは、私が身を置いている環境だったりする。
変わってしまったのは、職場の雰囲気だった。
私はホームページをデザインしたり、看板やポップなどのデザインをするデザイン系の会社に勤めている。
PCと向き合って絵を描いていても、耳をすませている訳ではないのに聞こえてくるものがあった。
「雨野さん、また違う男の人といたんでしょう?」
「嫌ね、あんなに清楚ですって顔をしながら四股なんて」
「それにみんな美形なんでしょう?なんであの子なのかしら」
「私の方が……」
わざと聞こえるように言われる私への悪口。
最初は小さな噂からだった。
でも噂とは怖いもので話に尾ひれが付きまくり、初めから高いわけではなかった私の評判はどんどんと落ちていった。
「口で言われるだけならいいんだけどね…」
はぁ、とため息を付きまとめあげた資料に目を落とすと、ひょいと誰かに取り上げられた。
「この資料、いまから提出しに行くんでしょう?私が持って行ってあげるわ」
「いえ、これは私の仕事ですので…」
「遠慮しなくていいのよ。今から向かう予定だったから」
何も言い返すことが出来なかった。
前から度々あった事だが、最近は全ての仕事がほかの人に横取りされていた。
「勘弁してよ…」
強く言えない私も悪いがこれはあまりにも酷いだろう。
今日もどんよりとした気分で仕事を切り上げて会社を出る。
なんだか少しざわついていることを少し不思議に思っていると、「や、」と聞きなれた声が聞こえた。
「アズお疲れ様。ヒソカにおつかいを頼まれたからついでに迎えに来たよ」
「あ!イルミ。わざわざお迎えありがとう」
このままここにいるとまた何か言われてしまうのでいつものスーパーの方に歩を進める。
でも迎えに来てくれたことがなんだかすごく嬉しくて頬が緩む。
「会社から出てきた時は死にそうな顔をしていたのに…そんなにオレが迎えに来たのが嬉しかったの?」
こてんと首を傾げられ笑顔で「うん。嬉しかったよ」と返すとそう返ってくるとは思わなかったようで一瞬イルミのポーカーフェイスが崩れた。
でもね、と付け足す。
「イルミは美形で目立っちゃうし、私なんかが隣にいると驚かれちゃうからこれからは迎えに来なくて大丈夫だよ」
「オレが来たら迷惑?会社で何か言われてるの?」
そうだった。この人達は嫌にカンが鋭いんだった。
「ちょっと仕事がうまくいってないだけだよ」
本当の事は言っていないが、嘘も言っていない。
ちらりとイルミの様子を伺うとなんだか納得していないようだ。
「私は大丈夫。気にしないで!おつかいを頼まれたんでしょ?早く行こう!」
私はその場の雰囲気から逃げるように少し早歩きをした。