中編
□第3話 身の回りのこと
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「イルミ、このメモに書いてあるものを買ってきてくれないかい?ボクは今手が離せないんだ♠そんなに急がないからさ♣」
そう言われて家を出たが、そんなに急がないと言っていたし、時計を見ると、そろそろアズの仕事が終わる時間だ。迎えに行って一緒に買い物に行くのもいいだろう。
アズの職場につくと、ガードレールに腰をかける。
1人女社員が出てくるなり急いで戻っていき、エントランスホールのあたりが騒がしくなった。
「あの人雨野さんと一緒にいた…」
「雨野さんが呼んだのかしら?最近仕事横取りされてるものね」
クスクスと笑う声がする。
嫌な視線を感じる。
アズはこんな環境で働いてるの?
自分の世界なら。とまたあの考えが浮かぶ。
今は世界が違うんだとその考えを振り払うとなんだかどんよりとした表情のアズが職場から出てきた。
声をかけるとアズの表情がぱあっと明るくなった。かわいい。
「アズお疲れ様。ヒソカにおつかいを頼まれたからついでに迎えに来たよ」
「あ!イルミ。わざわざお迎えありがとう」
さっきのどんよりとした表情はどこかに消え、いつもスーパーの方に歩きはじめたのでガードレールから立ち上がり、隣を歩く。
アズの方を見ると頬が緩んでいた。
「会社から出てきた時は死にそうな顔をしていたのに…そんなにオレが迎えに来たのが嬉しかったの?」
少し意地悪のつもりでアズにそう言ってみると、「うん。嬉しかったよ」と笑顔で返された。
「そんなことないから!」と頬を紅く染めると思ったのに。
「でもね、」と笑って付け足すアズに視線を向ける。
「イルミは美形で目立っちゃうし、私なんかが隣にいると驚かれちゃうからこれからは迎えに来なくて大丈夫だよ」
少し寂しそうな表情を見て先程のエントランスの様子を思い出す。
オレ達のせいでよからぬ噂がたってしまっているようなのは、美術館に行ったあの日から気づいていた。尾行していたあの2人が広めたということも知っている。
「オレが来たら迷惑?会社で何か言われてるの?」
アズはなんでも自分の中に抱え込んでしまう。押しつぶされてしまう前に少しでも楽になってもらいたい。そう思い気づいていないかのようにそう聞いてみた。
「ちょっと仕事がうまくいってないだけだよ」
嘘ではないが、本当の事は言ってくれないようだ。
「私は大丈夫。気にしないで!おつかいを頼まれたんでしょ?早く行こう!」
その場の雰囲気から逃げ出すかのように少し早歩きをしだすアズになんて声をかけてあげれば良いのかわからなかった。