中編
□第5話 おなじ
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寝苦しさを感じて私は目を覚ました。
相変わらずじくじくと痛むおなかを気にしながらぐっと伸びをする。
時刻は午前4時15分。
まだ太陽が登っておらず、辺りは暗闇に包まれている。
少しひんやりとした室内の空気がなんだか心細い気持ちにさせてくる。
ベッドサイドに置いてあるうさぎのぬいぐるみを手繰り寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
ふぅ、と息を吐き出しもう1度眠ろうと目を瞑ったが、なんだか眠れない。
仕方がないので少しお水を飲もうと、うさぎを持ったままキッチンに向かい水を飲んだ。
なんだか上に戻る気にはなれず、ソファーに身を投げてはぁ…と深いため息をついて兎に顔をそっと埋める。
ふと今日のことがフラッシュバックして心がズキリと痛み、目頭が熱くなった。
会社の時には抑えることができたのに何故か今は止まる気配がない。
ここはリビングだ。いつ誰が来るかわからないからこんな所で、いや、こんな事くらいで泣くなんてただの甘えだ。
誰かに見られたら心配させてしまう。
ごしごしと涙を袖で拭いていると、がしっと腕を掴まれた。
驚いて起き上がりそちらを見ると、フェイタンが様子を伺うようにこちらを見ていた。
これは違うと言おうと口を開こうとすると、音となる前にフェイタンが「眠れないか?」と尋ねてきた。
私が答える前にフェイタンは掴んでいた手を離して隣に腰掛け、「ちょうどいい、ワタシも眠れなかたよ」と少し笑った。
一緒に洗濯しているから同じ香りのはずなのに、なんだか優しい香りがする。
何も聞かずにいてくれるフェイタンの優しさにまた少し泣きそうになった。
「頬、痛くないか?冷やすもの持てきてやてもいいね」
立ち上がり冷やすものを取りに行こうとするフェイタンの服の裾を掴んだ。
「ま、待って!大丈夫だから!ただ何となく眠れないだけなの!」
取りに行くだけだとわかっているのになんだかとても寂しく感じてしまって咄嗟に出した腕を引っ込める。
自分がすごくめんどくさい人間に感じて「ごめん、なんでもない」と小さく謝った。
するとフェイタンは小さく笑って、私の頭をわさわさと撫でる。
「ワタシはどこにも行かないよ。ただ冷やすものを持てくるだけね。それとも一緒に行くか?」
優しい声色で子供を宥めるように頭をなでるので、なんだかすごく恥ずかしくなってきた。
「いや、ごめん、なんでもないの!あの、えっと、冷やすもの持ってきてくれたら嬉しいな」
すごく痛むわけではないが、熱を持っているのは確かだ。
少し冷やしてもいいと思ったのでフェイタンの厚意を受け取ることにした。
少しすると保冷剤をタオルに包んだものを持ってきてくれて、また私の隣に腰をおろした。
「ありがとう」とお礼を言うと
フンと鼻を鳴らして顔をフイと逸らしたフェイタンがなんだか可愛く感じた。
そっと頬にそれをあてると、ひんやりとした感覚が心地よかった。
「あまりムリをするの良くないね。ワタシをあまり心配させるな」
少し眉を下げて困ったように私の頭をそっと撫でた。
なんだかそれが心地よくて、そっと瞳を閉じた。