中編
□第5話 おなじ
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「アズ、いつもの時間よ。起きるね」
優しい声と共にゆさゆさと揺さぶられる感覚を感じる。
「ん〜」と気の抜けた声をだしてふかふかの布団を頭までかぶると、昨日の記憶を断片的に思い出して一気に現実に戻される。
「フェイタン!わざわざ運んでくれたの?」
むくりと起き上がり、じっとフェイタンを見つめる。
すると、フイと目をそらされ、「お前がかてにワタシに寄りかかて来たから運んだだけね。ただ邪魔だたからだ」と少し早口で言われる。そして「あとアズが風邪ひいたらワタシが困るから少し気をつけるがいいね」と付け足された。
私は1度瞬きをすると、そんなフェイタンの優しさが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう」
そう笑いながら言うとフンと鼻を鳴らしただけで特に何も言うことはなかったけれど、逸らされた横顔は真っ赤になっていた。
なんだかそれが可愛らしくてニヤニヤしていると、「は、はやく準備するがいいね!!」と早足で部屋を出ていった。
私は衣服を着替え、洗面所で顔を洗ってメイクをしてからみんなの元に向かう。
「おはよう♠普通にお化粧できているみたいでよかった♥」
リビングのドアを開けるとすぐ近くにヒソカがいて、私の頬に手を添えてそう微笑んだ。
「ちょっ!顔近い!」
とんとんとヒソカの胸を押すと、「ごはんできてるよ♣」と何事もなかったかのようにダイニングテーブルのイスを引いた。
その隣にイルミが座るとクロロが少し不満そうに私の前の席に腰掛けた。
私が席につくと2人とも私に「おはよう」と挨拶をしてくれて、怪我の様子を聞いてきた。
正直ヒソカが言うまで忘れていたのでなかなか調子がいいのだろう。
そっと頬に触れて首を傾げると、隣から視線を感じた。
隣を見るとイルミと目が合い、イルミは柔らかく目を細めると頭をわさわさと頭を撫でられた。
なんだか変な気持ちになっていたらヒソカが朝食を運んできて、私の意識はそちらに向いた。
朝食を終えると歯を磨いて家を出る。
昨日のことがあったのに何故か会社に行きたくないという気持ちはなく、むしろ今日も1日頑張れる気がした。
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アズが家を出ると、クロロはくあ〜っとあくびをして立ち上がって部屋を出ていき、フェイタンがそれに続く。
大方アズの部屋の絵を見に行ったのだろう。
昨日のことがあって見ることができなかったと言っていた。
今日は何をするにもアズのことが気になってしまうだろうし、何かあった時にすぐに助けてあげられるようにしておきたい。
ふわりと湯気の立ちのぼる紅茶に目をやり、イルミははぁ…とため息をつく。
アズは今日、それほど痛みを感じていないことを不思議に思っていたがそれの原因はイルミだ。
脳が痛覚を感じるところに鋲を刺し、一時的に痛みを麻痺させている。
勿論ヒソカたちはその事に気づいているが少しでも苦痛を和らげてあげたい気持ちは同じようで何も言われることはなかった。
勿論治ってきたら鋲を取り除くつもりだ。何も言わないのはそれを感じ取ってくれているのもあるだろう。
ごくりと紅茶を飲むと、そっと瞳を閉じた。