中編

□最終話 帰る場所
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今日は待ちに待ったお休みだ。

とはいえ、特にすることは無い。

今まではお掃除をしたり、お弁当のおかずを作り置きしたり、洗濯をまとめてしたりしていたが、今はヒソカが全てやってくれるので本格的にやることがないのだ。

お昼まで眠ろうと思ったのにいつもの時間に目覚めてしまった。
仕方ないので下の階に降りて朝ごはんを食べ、また自分の部屋に戻ってきた所だ。


「まだ社会人になったばかりなのに社畜体質みたいで嫌だな…」


折角のおやすみなのにベッドの上でごろごろしているのもなんだか勿体ない気がするが、如何せんすることがないのだ。
パジャマから着替えもせずにぬいぐるみを手繰り寄せ、ぎゅっと抱きしめていると、コンコンコン、と軽いノック音が部屋に響き、「入ってもいいか?」というクロロの声が聞こえた。


「うん、いいよ」


また私の絵を見に来てくれたのだろう。
ベッドに寝転がったままそう答えると静かにドアが開き、クロロと目が合った。

「お前…」と少し何か言いたげに呟かれたので、「だって何もすることがないし、待ち望んでいた休みとはいってもいざ休みになっても何をしたらいいかわからないんだもの」と気の抜けた声で言い訳をして、ごろんとクロロの方に転がると「だらしがないぞ」と困った顔をされた。


「何かすることないかな。このままじゃごろごろして1日が終わっちゃいそう…」

「天気もいいし散歩でもしてくればいいんじゃないか?それならオレも一緒に行くぞ」

「お散歩かぁ…そういう意味でののんびりもいいかもね。じゃあちょっと近くまでお散歩に行こうかな。クロロもついてきてくれるんでしょ?」


むくりと起き上がって笑顔を向けると、クロロも「ああ」と微笑み返してくれた。


「それならオレは部屋を出よう。準備を済ませたら呼んでくれ」


クロロが部屋を出ていくと、私が誘ったのに待たせるのも申し訳ないので急いで準備を済ませようとクローゼットを開けると、視界の片隅に落ちているスケッチブックを見つけた。

懐かしい。これは確か自分が学生のときに美術の授業で使っていたもののはずだ。

着替えを済ませ、スケッチブックを小脇に抱えてリビングへと向かう。


「よーし、準備できたよ」


ひょこっとリビングに顔を出して、小脇に抱えていたものをソファーの前のローテーブルに積んであるスケッチブックたちの1番上に積み重ねる。


「アズどこかいくか?」

「うん、クロロとお散歩に行ってくるよ」


「あっ、良かったらフェイタンも…」といいかけたところでスッと腕を引かれた。


「クロロ!あのね、ふ「すまんなフェイタン。今日は''2人''で行く予定だったんだ。な?アズ」

「えっ」

「ほら、アズもこう言ってるだろう?と、言うことで行くぞ」


そのまま私の腕を引いて玄関に向かうクロロにちらりと視線をやると、「オレはお前と2人が良かったんだ。だめだったか?」と眉を下げて尋ねらた。

美形に、しかも美形にそう尋ねられて「嫌だ!!」と言えるわけがない。
何故なら美形だからだ。
さすが…やり方を心得えてやがる…
きっとこの技を何度もいろんな人に使ってきたのだろう。




なんて考えるのは純粋な嬉しさを隠す私の照れ隠しだ。

ほんとは、ほんとはそんなふうに言ってくれる人は私の周りにはいないので、純粋に嬉しい気持ちが大半を占めている。
きっと私の口角は上がっているのだろう。


「ううん、そう思ってくれて嬉しいかな」


自然とそんな素直な気持ちが音となっていた。
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