中編

□第3話
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イルミさんから受け取ったお洋服は女の子らしくてとてもかわいらしい。

レースだから肌が透けて見えるけれど、イルミさんが選んでくれたのだからたぶんこれが普通なのだろう。

病院着とこんなかわいい服を比べるのは根本的に間違っていることはわかる。

袖に腕を通してワンピースを着たところで1つ問題が発生した。
このワンピは背中側にチャックがついていたのだ。

1人でできないものは仕方がない、「イルミさん」と少し大きめの声で呼ぶと、すぐに返事がかえってきた。


「どうしたの?使用人いる?」

「あ、いえ、そんな大層なことではなくて…とりあえずお部屋に入ってもらってもいいですか?」


ほとんど着ている状態だしらイルミさんは気にしないだろう。

ドアを開けたイルミさんの前に歩いていき、くるりと後ろを向く。


「後ろのチャックが上手くしめられなくて…しめてもらってもいいですか?」


一応邪魔にならないように髪を手で持ち上げると、じっ、っとチャックをしめてもらった。


「ありがとうございますこういう1人で着られない服はお手伝いしてもらうしかないですね」


病院の服は、羽織って前でリボンを結べばいいだけだったから誰かに手伝って貰うだなんて久しぶりの出来事だった。


「こういうお洋服は普通なら母親とかに手伝ってって言ったりするものなんですかね?…なんて言ってもイルミさんは男性ですからわからないですよね。私に兄弟がいたら、何かが変わっていたんでしょうか」


私に兄弟はいなかったけれど、それでよかったと思う。きっとこの家に生まれていたら自由に暮らせるとは思えないから。

それに2人のせいで私は死ぬのだ。
私はそれを望んでいたのだから悲しくはないけれど、未来に希望を持っていたとしたら自分の運命に絶望して死んでいくのだろう。
それならやはり私だけでよかった。


「イルミさんはご兄弟はいらっしゃるんですか?」

「うん。オレが長男で、下に3人」

「そうなんですね!兄弟がいるのは楽しそうですね」


最後に白い靴下を履いてからローファーを身につけて準備完了だ。

このローファーは革の靴なのに柔らかくて歩きやすい。

「そろそろ開園時間だよ。すぐに入れるようになってるからそんなに急がなくてもいいけど、全部まわりたいなら早めに行って損はないでしょ?」

「そうですね。私も準備と言った準備はないですし、もう行けますよ」


娯楽施設は初めてだからわくわくする。
楽しみな気持ちは全部顔に出ているのだろう。
窓から見えるのは18年生きてきた中で1度も見たことがない物ばかり。
さすがに本の中での情報だけでは得られないものもたくさんあるだろう。
飛行船から降りて入園ゲート前に行くと長蛇の列ができていた。


「すごい人ですね…こんなに人がいるのは初めて見ました」

「オレ達はここに並ばなくても入れるよ。ボディチェックは強制みたいだけど。人酔いって言うのもあるみたいだし具合が悪くなったら直ぐに言うんだよ」


イルミさんといくつか注意事項を話し合ってからゲートへ向かう。


イルミさんは人が並んでいるところとは違うゲートに向かい、係員さんにチケットを見せると、少しのボディチェックを受けてからすんなりと中に入ることができた。


「はい、これパンフレットだって。見てもよくわからないかもしれないけど」


手渡されたパンフレットを開くとこの遊園地の名物や人気アトラクションという文字が目に飛び込んでくる。
それより気になるのは入ってきた時のゲートだ。
みなさんは並んでいるのに並ばずに入るのは少しだけ申し訳ない気持ちになる。
こういう時は手っ取り早く聞く方がいいだろう。


「あの、私たちが入ったゲートとみなさんが並んでいるゲートって何が違うんですか?」

「ああ、この遊園地はチケット以外にパスポートっていうシステムがあってこれがあれば誰でもすぐに入れるシステムなんだよ」

「遊園地にはそんなシステムがあるんですね…」


確かに早く遊びたいのならそちらを使うだろうが、あまり使っている人を見ないことからきっと高額なのだろう。

今に始まったことではないが、私はすごく贅沢をさせてもらっていると思う。
こんなに綺麗な服を用意してもらって、温かいご飯を与えてもらい、行きたい場所まで連れてってもらう。
私の依頼料は足りているのだろうか。

もらったパンフレットを開いて見てみると、本で見たことあるものから全く知らないものまでたくさんのアトラクションがあることが分かった。

ジェットコースターは人によって合う合わないがあると本で読んだことがあるし、観覧車はほとんど締めで乗るものだとも本で読んだ。

私でも無理がなさそうなのは、コーヒーカップやスカイトレインなどだろうか。
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