非日常のとビら
□2日目 暗闇
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何かの気配がする。
そう感じて私は目を覚ました。
不吉な予感とベッドで眠っている私を見下しているような嫌な視線。
ひやりと背中に悪寒が走った。
…まさかおばけ?
怖くて目が開けられない。
目を開けて、目の前に気持ち悪い顔の怪物がいたらどうしよう。
ぎょろぎょろとした赤く血走った目で私をみて、大きな口をあけて私のことを食べようとしていたらどうしよう。
それとも幽霊だろうか。今までここに住んでいて会ったことはないから、どこかから連れて帰ってしまったのだろうか。
こういう時に想像してしまうのはだいたい髪の長い女だ。何故だかわからないが恐ろしい女の姿が想像のなかでどんどんと膨らんでいく。
私のことを見下ろすなんて何が目的なのだろう。
何かを私に伝えようとしている…?
いやいや、そんな訳がない。
おばけなんていない。
よく考えてもみろ。私は今まで生きていた中そういったおばけの類いを見る事はおろか、感じ取ったことすらないじゃないか。
きっと気のせいだ。目を瞑って視覚情報をシャットアウトしているせいで変な想像が膨らんでしまっているだけだ。
ただでさえ暗闇は要らぬことを考える要因となるのだ。
少し目を開けて何もいないことを確認すれば、きっと安心して眠ることができるだろう。
大丈夫、私なら大丈夫。と暗示をかけて目を開けると、目の前に長い髪の毛が見え、サーッと血の気が引いていくのがわかった。
「ちょっとほんと無理なんだけど!」
私は反狂乱になって近くになったクッションを投げつけると、ベッドから立ち上がり、部屋を出ようとした。
しかし、がしっと腕を捕まれて前に進むことが叶わなくなる。
「やだ!離して!」
このままじゃ連れていかれる!
怖すぎて涙すら出てこない。心霊体験などしたくもなかった。
「…ぇ、…と…つい…よ」
「やぁぁあ…」
自分の叫び声で相手が何を言っているかよくわからないが、幽霊の声など聞きたくもない。
自分の声でかき消そうと喚き散らしていると、腕を引かれておばけの方へ引き寄せられた。
自由な方の手で目を覆い隠し、目を固く瞑る。
「しー、ココナ。オレだよ」
むにっと唇に指が当たる感覚にびっくりして恐る恐る手をどかしてみる。
「い、るみ?」
目の前にいるのは髪の長い女の幽霊などではなく、確かにイルミだった。
こんなに髪が長ければ見間違いだってする。
ただでさえ怖い想像がもくもくと膨らんでいたのだ。
そんな紛らわしいやつが枕元にいるのが悪い。
「ハハハ、ココナの心臓めっちゃバクバクいってる〜」
そう笑うイルミを振り払って胸の内にある疑問をぶつける。
「ちょっと、こんな夜中に何してたの?」
「えっ?何って可愛い婚約者の寝顔を見ていただけだけど?」
「ちょっと待って、シンプルにキモいんだけど」
まずイルミと婚約した覚えはない。
嫌な視線はこいつに寝顔を眺められていたからだったようだ。改めて考え直すとやはりシンプルにキモい。
「未来の旦那にそんなことを言うなんて酷いなー」なんて言っているイルミに「勝手に夜中にうちに入り込む上に人の寝顔を覗いてる男と結婚したい奴なんていないから。私も例外ではないからね」とベッドに座りイルミに指を指す。
「次からこういうことしたらイルミと口利いてあげないから」
「そんなに驚かれるとは思わなかったんだよ。それに口を利いてもらえない困る」
それを防ぐにはどうしたらいいのだろう…と真剣に悩み始めた男を無視してもう一度自分布団をかけて、くだらない事で悩んでいる男に背を向けて私は目を瞑ろうとした。