非日常のとビら
□6日目 鍵
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私は玄関の前で途方に暮れていた。
「鍵が、ない...?」
バッグをガサゴソと漁ってみても、制服のポケットに片っ端から手を突っ込んで探ってみても鍵らしきものが見つからない。
これの原因としては多分朝の私のあの行動にあるのだろう。
今日の朝、私は寝坊した。
バタバタと準備を済ませて部屋に鞄を取りに行った時、丁度イルミがこちらに来たようだったので鍵をかけるよう頼んだのだ。
きっと私は焦りすぎて玄関に置いてあった家の鍵を取り忘れたのだろう。
原因は大体わかったとしても何も解決にはならない。
困ったことに私が家に入る術が何も無いのだ。
一応チャイムを鳴らしてみたが、何も反応はない。
今は誰もいないのだろう。
変なところを面倒くさがった私への罰なのだろうか。
どうしてこんな時に限ってこんなミスをしたんだ…なんて思ったけれど、自分で鍵をかけない限り家の鍵なんて見ることがない。
そう考えると鍵を忘れたことに気づかないのも当然といえば当然だろう。
家を出る前に戸締りはしっかりと確認しているため1階の窓は空いていない。
「完全に締め出された」
自分の家なのに。
しかし今回は全面的に私が悪いから何も言えない。
家の前に座り込みこれからどうするかを考える。
誰かが帰ってくる訳でもないのにここで座っているのはなかなかに恥ずかしいものだ。
お父さんお母さんに報告して解決する問題でもないし
この状況を説明しても「は?」と言われるだけだろう。
さすがにその位は想像できる。
一人暮らしの娘から「家に鍵がかかっていて入れない!」だなんて連絡が入ったら私以外の誰かがいるのか?と不信感を抱くに決まっている。
それがバレたとして本当のことを話しても私が誤魔化す為に馬鹿みたいな嘘をついていると思われるだろう。
まず「異世界の人が家に来てる!」なんて言った暁にはお父さんもお母さんも何かに騙されていると心配して帰ってきてしまうだろう。
さすがにそんな迷惑は限られない。
...よくよく考えたら、鍵を落としたことにすればいいのか。いやいやそうではなく。
鍵を作る...という案も思いついたが、私は何か買いに行くものがある日以外は学校にお財布を持っていかない人間のため持ち合わせが全くない。
強いて言うなら自販機で飲み物を買うための500円しかない。
私はこのまま外に閉め出されたまま夜を明かすのだろうか。
この状況はなんだか小さい頃を思い出す。
帰りが遅くなってお母さんに怒られた時こういう風に閉め出されたことがあったっけ。
小学校の時に門限を少しオーバーして帰ってきたら鍵がかけられていたのだ。
チャイムを鳴らしても開けてもらえなくてすごく焦ったっけ。
昔の思い出に身を馳せて現実逃避している場合ではない。
いい考えが思いつかないままどんどん日が落ちていき、気づいた頃にはもうすっかり夜の帳が降りていた。
「うわー、もう8時か…」
スマホのロック画面をのぞき込み途方に暮れる。
誰か来たとして私がいないことに気づいてくれるだろうか。
私が誰か来たことを感じ取ってチャイムを鳴らしたとして、出てきてくれるだろうか。
私ではない可能性だってある訳だからなるべく他者とは接触しないように出てこない可能性だってある。
ああ、ここは嫌な意味で腹を括るしかないのか…と頭を抱えていると私の部屋の電気がついた。
誰か来た!
急いで立ち上がるとチャイムを連打してからリビングの方に向かい「誰かわかんないけど鍵開けて!」と繰り返し言いながら全力で窓をコンコンとノックする。
するとフェイタンが現れて窓を開けた。
「お前何してるか」
フェイタンは疑わしげな視線を私に向ける。
そりゃそうだろう。この家の家主が家から閉め出されているのだからこの反応が普通だ。
「あのね、説明するから鍵を開けて…」
いつもご飯を食べている時間から随分と時間が経ってしまったのだ。
今お腹が大ブーイングをあげている。
「…わかた。ちょと待てるね」
フェイタンは窓を閉めるとそこから去っていく。
まもなくして聞こえた鍵の開く音に私はひとまずひと安心することができたのだった。
「本当にありがとうフェイタン!」
ドアの鍵を開けてくれたフェイタンは命の恩人だ。
ドアを開けたら目の前にいたフェイタンにぎゅうと抱きついてお礼を言う。
「わ、わかたから離れるね!」
そう肩を押されて離れるとフェイタンの顔は真っ赤だった。
「ご、ごめん…フェイタンにそういう耐性がなかったとは思わなかった…」
素直に感じ取ったことを口に出す。
「どういうことね。お前殺されたいか?」
「ごめんもう何も言わないから殺さないで」
ススス...と身を引くとフェイタンは私から顔を背けて顔を手で覆い隠した。