非日常のとビら
□10日目 祭り
1ページ/2ページ
スマホの画面をタップして私は深いため息をついた。
『ごめんココナ!彼氏と行くことになったからまた今度でお願い』
突然電話がかかってきたと思えばあやつはそんなことほざきやがった。
なんてタイミングに誘ったんだ彼氏。
もっと前もって誘っとけ!
そんな悪態を心の中でついてスマホを机に置く。
私の前には珍しく鏡があり、机の上にはアクセサリーが広がっている。
そう、今日は友達と一緒にお祭りに行く予定だったのだ。
浴衣を着たし髪だって可愛くセットしてみた。そして珍しく化粧までしたのだ。見せるヤツなどいないけど。
最後にアクセサリーを選んでいるところでそんな電話がかかってきたのだ。
ここまでしたのに行かないのは何となく癪に障るけれど、周りはカップルだらけだったり友達同士でわいわいと楽しんでいたりするなか祭りぼっち参戦は辛すぎる。
しかし私はべっこうあめを食べたい。
祭りの時に絶対買うあれがなければ夏という感じがしない。
そうだ。そんな時の扉だ!
妖精のデザインの時計を腕につけてお財布やスマホなど最低限のものを入れた巾着を持つと例の扉に手をかける。
前クロロに旅団に連れて行ってもらった時の道筋はちゃんと覚えている。
からからと耳に心地いい足音とたてながらぼろい建物を抜けて歩いていくとホームが見えてきた。
誰かいるだろうか。そんなことよりだいぶ今更だがこんな所に1人で来て大丈夫だったのだろうか。
そんな少しの不安が心の中に芽生えた時突然誰かに手を引かれ思わず足が動き、着慣れない着物のせいでバランスを崩す。
「うぎゃあ!」
「ちょっと大丈夫かい?」
「ひ、そか」
ヒソカは軽々と私を受け止めて体制を元に戻してくれる。
「ところでそんな可愛い格好をしてこんな所に一人で来るなんて襲われに来たのかな♦」
「んなわけないでしょ。そうだヒソカ!私に付き合ってよ!」
丁度いい所にこいつはいたものだ。
ヒソカを道連れにしてやろうじゃないか。
返事を聞く前にヒソカの手を引っ張るとホームの方から声が聞こえてきた。
さっきの私の叫び声で出てきてしまったのか。
「ココナ!お前1人で来たのか!?」
クロロが少し焦ったように中から出てきた。
なんでクロロがそんなに私を気にかけているんだ。異世界人だからか。
「ひとりで来たよ?旅団の人は私を殺さないんでしょ?」
邪魔になったらスッパリと殺られそうだがまだちゃんと私の世界を歩き回ることができていない。
それにクロロは団員に私に手を出すなと言っていたことからあいつが私に興味を持っている限りは殺されはしないだろう。たぶん。
「今日はいつもと服装が違うんだな?」
まじまじとクロロに見られると似合っているかなぁ…とか着付けがあっているかなぁ…なんて不安になってしまう。
一応こいつらは顔だけは整っているのだから。
「変かな?似合わないならやっぱり服変えようかな…」
不自然ならやっぱり自然が1番だろう。少し浴衣を着てお出かけしたい気持ちはあったけど無理して着ていく必要はないし。
「まて!誰もそんなことは言ってないだろ?」
「えっ、じゃあ着付け間違ってる?マチさんならわかるかな」
マチさんはこんな感じの服装だったはずだ。雰囲気でわかって貰えるかもしれない。
きっとホームにいるかもしれないから覗いてみよう。
ホームの方に足を運ぶとヒソカとクロロの双方に引き止められた。
「ちょっと、それ以上ライバルを増やすような真似はしちゃダメだよ♦」
「なんだよ別に危害を加えたりしないよ!殺られるもん!それに今どきライバルってなかなかないしただちょっとお話しに行くだけだから心配しなくていいって」
「そういうことじゃないから一旦待て」
クロロに肩に手を置かれたので仕方なくストップする。
くるりとクロロの方に方向転換すると肩に置かれていた手が頬に添えられ、至近距離で目が合った。
「今日はメイクもしてるのか。その格好といいメイクといい何かあるのか?」
「は、恥ずかしいからそんなまじまじ見ないでよ」
クロロの目を見ていられなくて思わず目を逸らす。
「今日はお祭りがあるから友達と一緒に行く約束をしていたんだけど、その友達が急遽彼氏と一緒に行くことになったってその約束がなくなったんだよね」
私がここに来た理由を話すと2人の食いつきが半端じゃなかった。