非日常のとビら
□11日目 花火
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今日はたくさんの手持ち花火を買ってきた。
久しぶりにやりたかったし、そう思った時にちょうど安く売られていたら買ってしまうのも仕方ない。
私は線香花火が大好きだから単体でも買ってきた。
夕食を済ませると空はすっかり黒く染まっていた。
バケツに水を汲むと火をつけやすいように太めのろうそくに火をつけた。
ゆらゆらと揺れる火はなんだか風流を感じる。
蚊に刺されたくないので蚊取り線香を持ってくると線香に火をつけてデッキに置いておく。
花火セットを開けてすべての花火を取り出すと、1本の花火を手に取り火をつけた。
しゅうっと音をたてて綺麗な色を見せてくれる花火は少し経つとすぐに消えてしまう。
私はこの儚さが好きなのかもしれない。
それにしても1人花火もなかなかレベルの高いことのような気がしてきた。それも気にしたら負けのような気がしてまた花火を手に取る。
2本、3本と火をつけていると玄関のドアが開いた。
「ココナ、ここいたか」
「あらいらっしゃい。今花火して遊んでたんだけど、フェイタンも一緒にやる?」
しゅっと花火に火をつけて見せてみると、彼は興味深そうに私の手元を見た。
「綺麗でしょ?ここから好きなの選んで…って言ってもよく分からないだろうし、はい、これどうぞ!」
私が適当に手に取った花火を彼に渡す。
「まずこのひらひらをちぎって、こっちを手に持ってここに火をつけるの」
きらきらと赤や白の火花を散らす花火が静かに燃え尽きるのを見届けた後、「終わったらこのバケツに入れてね」と花火をバケツに入れるとジュウといい音がした。
「ねっ?簡単でしょ?」
私のを見終えた彼は私のやったようにひらひらをちぎっている。
そっと火をつけるフェイタンは子供のように目を輝かせていてなんだか可愛かった。
「そっちの世界にはこういうのないの?ちっちゃい頃にやったりしてない?」
ぱちぱちと輝く花火を見ながら私はそう訊ねる。
「見たことはないね。あたとしても…」
そのまま彼は黙り込んでしまう。
まずいことを聞いてしまったのだろうか。
「ご、ごめん!話したくないならいいんだ!」
消えてしまった花火をバケツに入れて急いで謝る。
「別に気にしなくていいね。旅団のほとんどは流星街の出よ」
「流星街?」
綺麗な名前の街だと思ったがどうもそれは私の思い違いであった。
花火がぼんやりとフェイタンの顔を照らしている。
「流星街。何を捨てても許される街ね。それは人間であっても…ね。そこで生まれ育った人間は社会的情報が何一つない、存在しないことになてるね。だからワタシはあの世界には存在してない」
また花火に火をつけたフェイタンはなんだか楽しそうだ。
存在してないことになっている。フェイタンは確かにここにいるのに。
「存在が無ければ身元が特定されない。それなら犯罪者には持ってこいなステータスってことか…」
「そういうことね。別に不幸だなんて思たことはないよ」
だからそんな悲しそうな顔するのやめるね。と少し眉を下げて言われる。
この問題は私の感情論で考えるべきことではないように感じた。
存在してないからこそのメリットを彼らは利用しているだけだ。
旅団の結束力が固いのはこういう訳があったからなのだろう。
自分の物差しで不幸だと決めつけるのは失礼だ。
「そんな大切なことを話してくれてありがとう」
きっとこれが正解だ。
こんなに大切なことを話してくれたのは少なからず信頼関係というものが出来てきたからなのであろう。
彼が、彼らが信用してくれているのなら私もそれに応えよう。
たとえそれが演技だったとしても自分が信用しようと決めたのだから、自分の意志であるから彼らを責めるつもりも毛頭ない。
「フェイタン!これやろうよ。私これが1番好きなんだ!」
線香花火をフェイタンに渡すと、先ほどとは違う形状に首をかしげている。
「これはね、こうするんだよ」
線香花火の先端に火をつけると丸い火の玉ができた。
落とさないようにそっと自分の前に持ってくると火の玉がぱちぱちと火花を散らしはじめる。
ある程度いったところで火の玉はぽとりと地面に落ちてしまった。
「あー。落ちちゃった。これを落とさないように消えるまでできたら成功!みたいな感じかな。ねぇ!勝負しない?私とフェイタン、どっちが長い間落とさないでできるか!」
「ふん、望むところね」
微笑んでくれたフェイタンと一緒に火をつけて線香花火勝負がはじまった。