非日常のとビら
□13日目 体力勝負A
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イルミのところに戻り、私は荷物を受け取ろうとした。
だが彼は私に荷物を持たせる気は無いらしい。
話を逸らすためなのかあっ、と小さく声をあげた。
「そう言えばココナのその服特注なんだよね。だから…」
イルミが私のハイウエストスカートの編み込んであったリボンの部分をしゅるっと解く。
「えっ!ちょっと!」
「しー、よく見て。この中に軽量型のナイフと、もしもの時の小型無線機が入ってるから」
少しゆとりのあるスカートだとは思っていたが、こんな機能があったとは。
「わ、私ナイフなんて使えないよ?」
「護身用としてもだけど、ナイフ1本あればだいぶ便利だからね。使わないとも言いきれないしココナも持っておいて」
それから無線機の使い方をさらっと教えてもらい、スカートを元通りにしてもらう。
「わざわざ解かなくてもこの横の部分から中身は取り出せるよ。ある程度のものは入れておけるからスマホとかはここに入れておきな」
言われた部分を探って見ると確かにポケットがあった。
どうやら外側からは入れられるが、内側からは出てこない仕組みになっているようだ。
これなら絶対に落し物はしないだろう。
ジリリリリリリリリリリという大きな音に私の肩は大きく跳ねた。
私達に指示をしているあのおじ様は私に運も才能のうち≠セと言ってくれた人だ。
彼の指示で前方の人達は歩き出す。
「ココナ。おいで」
イルミに言われるがまま大人しく横抱きにされる。
私はこうして荷物のように運ばれるのか。
「さて、一応確認いたしますがハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり実力が乏しかったりするとケガをしたり死んだりします。先程のように受験生同士の争いで再起不能となる場合も多々ございます」
受験生同士の争いでそんなことになっても規制されないのか…いや、そうじゃなくて争いがありすぎて規制できないのか。
知れば知るほど怖すぎるぞハンター試験。
「それでも構わない───という方のみついて来て下さい」
「ギタラクル。私」「だーめ。行かせないよ」
言い切る前にダメと言われた。
実力が乏しいから私は受けたくありません。あと運も悪いので受けたくありません。
「ううう、私痛いのやだよう…降ろして…」
「だーめ」
「承知しました。第一次試験404名全員参加ですね」
「ギタラクルのせいで参加することになっちゃったじゃん…どうしよう大きい傷とか作っちゃったら…私お嫁にいけない…」
顔面偏差値は中の中。とっても可愛い理由でもないし取り立ててブスってわけでもない。普通なのだ。
そんな良くも悪くも普通の女の顔にマフィアのボスのような大きな傷が顔に出来たら本格的にやばい女だ。すごい偏見でものを言っているけど。
「何度も言ってるでしょ。ココナはオレが貰うって」
「死んでも嫌だわ!怖いもん!」
それにこんな一般人の小娘を嫁に迎え入れたいと思うとは思えな……待てよ、まさか。
「ココナがハンターライセンスを持っていればそれなりの実力があるって分かるでしょ?どうやって取ったにしても持っていることに価値があるんだ」
そういうことだったのか!だからそこまで私がハンター試験を受けることに対して固着していたのか。
私はライセンスを取ってしまえばイルミのお嫁さんになる確率がどれ位上がるのだろう。
「やだぁ!離して!!生理的に受け付けません!いやぁぁあ!!」
「はいはい、何言っても降ろさないからね」
ぎゃーぎゃー騒ぐ私の周りからはどんどん人が少なくなっていく。
「ほら、ギタラクルのせいでみんな私のこと避ける…」
「ココナがうるさいからだよ。みんな走ってるんだよ?」
そんなの見ればわかるわ。
みんなが一生懸命走っているなか私は全く走らずに抱っこされてイルミに運ばれている。
そんなふうに楽をしているのが申し訳ないのだ。
周りはハンターになりたいと努力してここまでたどり着いた人達なのに、その気が微塵もない私がこんな方法で試験に臨むのは最低だ。
つまりイルミ最低。
「ココナは他人の勝手な理由で付き合わされてるのに変なところ真面目だからなー。ココナの元気な声を聞いてるときっと周りの人が体力使っちゃうよ。どうせまだまだ走るだろうしのんびりしてるのが吉だと思うよ」
確かに自分は疲れているのに騒いでる人間がいたら腹が立つだろう。
仕方なく飴を口に放り込んで大人しくすることにした。
「全くもって心配とかはしてないんだけど、ギタラクルは私みたいな重量物抱えて走るの辛くないの?」
私の体重をずっと支えていると腕が疲れそうだ。
普通の人ならね。
私はイルミとかヒソカとか、旅団のみんなとかを人間だとは思っていない。だから私は彼らに抱っこされることに抵抗がないのだ。だってトン単位でものを持ち上げられそうだもん。
「そうだね。ココナの体重なんて重さのうちには入らないから。まず家に帰るために入る門を開けるには最低2tの力がいるからね」
「だよねぇ。家に入るために最低2tとかだいぶ狂ってる。そう思って私は安心して抱っこされてるし。普通の人だったら私の体重支えられないよ」
抱っこされることに対しての抵抗は自分の重さで相手に負担をかけてしまうということだと私は思っている。
トラック余裕で持ち上げられそうな彼にとって私は羽毛みたいなものなのだろう。