非日常のとビら

□14日目 すすめ!高い塔B
1ページ/6ページ




睡眠時間が長すぎたせいで眠って暇を潰すこともできず、途方にくれていた。

ヒソカたちとずっと一緒にいたせいで受験生からもあからさまに避けられている。

危害を加えられることが無さそうなのはいいけれどそんなにはっきりと拒絶されると傷つく。
そのおかげで人が寄り付かず1人でいられるということがメリットだけど。

リュックの中に入っていたボディシートで体を清潔にすると口の中に飴を放り込みスマホにイヤホンを差し込んだ。


イルミは本当に私が必要とするものをバッグの中に入れてくれていた。
充電器を使う時電圧の違いがないか少し警戒したが、どうやら使うことができそうだ。
壁際にあったコンセントに充電器を差し込むと音楽をかけた。
外界の音はシャットアウトされて音楽しか聞こえない。これで少しは気が紛れるだろう。


明日の集合時間は8時だったはずだ。
あといくつ試験があるかわからないが体力を温存しておくべきだということはわかる。

ここは無理してでも眠った方が自分の生存率が格段に上がるのだ。

目を瞑るだけでだいぶ違うというからせめて目を閉じていよう。

ブランケットを自分にかけてジャケットを枕にするとリュックを抱きしめる。
少し寝にくいが悪くはない。

こんなところを独り占めしていていいのだろうか。なんて思いもしたけれど、きっと私なら何処に行っても関係ないのだろう。


明日の試験はなんだろう。なるべく1人にはなりたくないな…
今日の私はなんだかおかしかった。
可哀想だと思っていたからといって殺すのは違うと思う。
親がいないからといって必ずしも死んでしまうとは限らないのに私は…

少し考えてみてまた不審点が浮かぶ。

私がそこまでできる行動力があっただろうか。
いや、絶対ない。魚だって殺すのを躊躇うのに動物を私が殺せるわけが無い。

こんな変な行動を取ることについては心あたりがある。

絶対ヒソカかイルミが私に何かしたんだ。私は知らない間にあいつらに何かされていたのだ。

何をされていたかは全然わからないけれど何かをされていたということは二次試験の時に私のことを見てたはずだ。
少なくとも豚をどうにかしてる時には見ていたはずだ。

じゃああのクソ重い豚を運んでいた時も、メンチさんと話していた時だって見られていたのかもしれない。
メンチさんと話していた時スラスラと浮かんできた言葉達は今の私の気持ちとは全く真逆のことのような気がする。

思考まで操られるのはとても困る。

さて、どちらだろうか。
イルミか、ヒソカか。

今わざわざ起き上がってあいつらを探すのは何となく癪に障る。
気になるけれど明日どちらかに会ってから聞いてみよう。正直に答えてくれるか分からないけれど。

イヤホンからは穏やかで優しい音楽が流れ続けている。
このままいけば眠れるだろうと安心していたとき、なんとも言えない鉄くささを感じた。

何も考えずに目を開けて起き上がると手を真っ赤に染めた白い髪の男の子と目が合った。


「だ、大丈夫?怪我したの?痛くない?」


気づいたら私はそう彼に駆け寄っていた。
暑くもないのに彼の額にはうっすらと汗が滲んでいる。相当辛いのだろう。


彼はキョトンとして何も言わない。
手が血だらけの場合は洗わせた方がいいだろうか。


「そこの角にお手洗いがあったはずだから洗っておいで。汗がすごいみたいだしボディシートあげるから拭いておいでよ」


血だらけになるのは致し方ない。そんなこと気にするより私は彼が心配だ。

何か言おうとする彼を強引に見送ると彼に何があったのか気になってきてしまう。

ハンターという職は人気が高いから志す者同士で殺し合いになったりするときいた。
それでもあんな子供にまで手を出すのはおかしいと思う。
それこそ自分の非力さを証明している様なものだ。

そんなことをした奴はどんな奴がなのだろう。

そんな好奇心に忠実な私は彼の来た道を辿ってしまって後悔した。


噎せ返るような血の匂いに胃の中の物がせり上がってくる。

廊下に転がっているのは確かに人間の首。そしてそれが付いていたであろう体が2つ。頭顔が半分に切れていたり腕が取れていたりと普段見えないような物が見え隠れしていて心臓が大きく脈打つ。


どうにかして胃の中のものを押し止めると元いた場所まで戻る。
彼が言わんとしていたことはこれだったのか。
彼の手に付着していたのは彼自身の血液ではなくここに倒れている2人の血だったみたいだ。


「ぶ、物騒…」


私はそうとつぶやくことしか出来なかった。
まさかあんな子が加害者だとは思わなかった。

強引にものを進めてしまったけれど殺されたりしないだろうか。


「おねーさんこれサンキューな。あとアレ、オレの血じゃないよ」


ケラケラと笑いながら私にボディシートを返してくれる。袋に血液が付いていないところからわざわざ綺麗にしてくれたのだろう。


「血付いてたのわざわざ綺麗にしてくれたんだ。ありがとう。気を遣わせてごめんね」


感謝の気持ちはちゃんと述べておかないと気持ち悪い。


「おねーさんオレが怖くないの?オレ実は暗殺者なんだよね」


うわー、ここにもいたか暗殺者名乗っちゃう奴。
こんな子でも暗殺者やってるこの世界はほんとにどうなってるのだろう。


「ごめんね。私まだそういうカミングアウトにどう返せばいいかわかんないんだ…」


私になら話のネタのノリで打ち明けてもなんのデメリットもないと思われているのだろう。
間違ってはいないけどそれにどう返せば良いのか、まだ受け流し方を心得ていない。


「あはは!何それ!答えになってないじゃん!」


彼はそういうなりゲラゲラと笑い出した。
私の返答はそんなにも可笑しかっただろうか。

ここに来てまだ1日目だ。ここの常識なんてわかりゃしない。

でも彼が楽しそうならいいのだろう。なんだか釈然としないけど。


「オレはキルア。おねーさんは?」

「えっ?私?私はココナだけど」


突然名を訊ねられてびっくりしながらそう返すと彼は嬉しそうに笑った。


「おねーさん面白いから簡単に死なないでよね。まぁヒソカとか針男がいるから大丈夫だろうけど」


そう彼…キルアは言うと私の前から立ち去った。
あの2人がいるから大丈夫じゃないんだよ…

私はどんどん面白い玩具へと成り下がっているような気がした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ