非日常のとビら
□16日目 さばいばるD
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「ギタラクルの顔怖いよ〜いつもの方が美形なのに勿体ない〜」
「はいはい、そんなこと言っても外さないよ。褒めてくれるのは嬉しいけど」
「その顔で喜ばれても嬉しくない。見慣れないからやだー」
私とイルミは手を繋いで話しながら歩いていた。
だっこされ係は一時中断し、ここ1時間ほどはお散歩ペースで歩いていたのだ。
先ほどから私はイルミに同じことを話しているのに彼は付き合ってくれている。
でも今のイルミの顔は怖い。いつもの能面フェイスが恋しいや。
「そろそろ暗くなってきたな。オレは寝なくても大丈夫だけどココナはそんなことないし、寝床探そうか」
「寝なくても大丈夫が意味わかんないけど私は睡眠必要だからね」
私の手を引くイルミの手をぶんぶんしてアピールするとわかってるよ。食べ物も取ってくるから安心して。と宥められた。
今日は誰にも会わなかった。
でも何となく、何となくだけど、誰にも会わないようなルートを選んで歩いていた気がする。
今まで人を殺める時に私に目隠しをしていた。
つまりなるべく私にそういうものを見せたくないのだろう。
それなら人と会わない方が見せたくないものを見せなくてもいい。
きっと私は早く寝た方がいいだろう。
ひとりになるのは怖いけれど、寝てる間ならなんでもいいや。
「ねえイルミ。私のプレートイルミ…じゃなくてギタラクルが持っててよ」
「いいけど?」
「私の世界の歴史でね、税金が高いのを逃れるための手段としてその時に名声のあった人に報酬を渡す代わりに名前を借りるっていうのがあったんだよね。私の手段は昔の人の知恵だ!」
「ということはココナはオレにどんな報酬をくれるの?キスとかしていいの?」
「その顔面じゃなきゃいいよ。それじゃあ怖いし」
イルミは何故か変装をしている。
それならばきっと試験中は変装を解けないのだろう。
ふふん!策士の私の勝ちだ!
「そっか、残念。あ、ちょっど良さそうな洞穴発見」
「毒蛇とか有毒そうなのいない?さすがにそういうので死ぬのは嫌だよ?」
仕方ないから虫は我慢してやろう。
コウモリに噛まれて狂犬病になるのも嫌だな。
でもイルミはえんとやらが使える。ゴキブリの時も、トリックタワーの時もそれで解決してくれたのだからめちゃくちゃ信用してる。
とっても便利な能力!
「うーん、蛇とか蜘蛛とかココナが病気になったり死んじゃったりしそうなのはいないと思うよ。…というかここの洞窟何もいないみたい」
「ここの辺りは光源が何も無いから焚き火するのに燃えるものが必要だよね。私取ってきてもいい?」
さすがに何もしないのは申し訳ない。
遠くまで行かなければ問題ないだろう。
「オレの目の届くところまでなら自由にしていいよ」
「わーい」
イルミから許可が出たので枯葉を集めて洞窟の風で飛んでいかない程度の所にためておいた。
ここは島だから枯葉には困らなそうだ。
乾いている木はなかなかないものだ。
火のついた枯葉を見ながらこれはどれくらい持つんだろう…とぼんやり思う。
枯葉集めは思いのほか楽しくてこの辺りの枯葉を全て集めたんじゃないかって量の枯葉集めに成功した。
「ねえ、これなら何とかなりそうじゃない?」
「枯葉集め楽しかったの?」
「うーん、私焚き火とかした事がないから燃やすものをこんなに集めることもなかったしなんだかんだで楽しかったんじゃないかな」
穴を掘ってから燃やすものを入れて〜とかいう知識は何となくあったけれど、家の庭で焼き芋を焼くのにそこまでしようと思わなかったからなあ。
「はい、これあげる」
突然ぽんと投げられた赤い物体を慌ててキャッチすると、手の中に収まったものに目を落とす。
「り、んご」
「そうりんご。毒とか入ってないから食べても大丈夫だよ」
「なんでわかるの?」
「えっ、簡単だよ。食べたから。オレ毒効かないし」
なんだそのチートみたいな能力は。
聞いたところ彼の家の食事には毒が入っていて、小さい頃から少しずつ耐性をつけていったらしい。
暗殺一家だからと言われればおしまいだけれど、やっぱりほんとに狂ってる。
辛くなかったのか聞いてみるとそれが普通だと思っていたと返ってきた。
確かに他の家庭と比べなければ自分のお家の決まりがおかしい事ということに気付かないのは普通のことだ。
私の普通で考えるのはおかしいだろう。
貰ったりんごを齧ってお腹を満たす。
焚き火が温かい光を放ち、洞窟内を照らす。
ぼうっと洞窟内を見ていると洞窟の奥がどうなっているのか何となく気になってきた。
リュックと無線機を洞窟の隅に置いて食べ終えたりんごを焚き火の中に放り入れると奥に進んでみることにした。