非日常のとビら
□18日目 おりがみ
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ライセンスを持って帰ってからはしばらく誰も来ず、1人でゆっくり過ごすことができてだいぶ疲れも取れたと思う。
今日も家事を一通り終わらせた私は部屋を片付けていた。
奴らが来るようになってからそんなに部屋が荒れることがなくなったからあまり片付ける場所はないのだけれど。
押し入れの片付けをしながらふと1冊の絵本を手に取ると、パラパラと捲ってみた。
お風呂嫌いなわんこの絵本だ。懐かしい。
絵本が好きだからこうして定期的に読み返すことが多いけれど、片付けの時は決まって絵本を読んでしまう気がする。
小さい頃好きだった小さな王国のお姫様の物語がかかれた絵本の表紙をそっと撫でる。いつからこの本を持っていたかはよく覚えていないけれど何度と読むくらいこの本にはお気に入りだった。
こんなにいい作品なのに周りの人は読んだことがないらしい。
小さい頃の記憶だから覚えていないだけかもしれないが。
絵本を元の場所にしまうと、視界の端に折り紙が映った。
折り紙はたまに見るとやりたくなるものシリーズのひとつだと思っている。
1枚紙を取り出して、折り紙を折る。
最高に平和的で幸せだ。
この前の試験で平和的なのが一番だとあらためて感じた。
作り終わった鶴を机のスミに置くと小学生の頃によく作ったぱくぱくやカエル、やっこさんやカメラに手裏剣、メダルやひまわり、同系色の折り紙を何枚か出して二十四面体のくす玉を作る。
童心に返るのも、たまにはいいかもしれない。
なかなかに楽しくて、時間の進みが早く感じる。
意外と折り方は覚えているものだ。
あると便利だからと貰ってきた古新聞を引っ張り出して紙鉄砲まで作り出し、金色の折り紙が出てきて動きが一時停止した。
小さい頃は金と銀の折り紙をすごく大事にしたなあ。
なんて思いながらふとイルミの鋲を思い出して作ってみることにした。
さすがに立体には作れないから平面的にだけど。
どうすれば綺麗にあの形になるかと試行錯誤し、それっぽい形になってきたところで「何してるの?それ、もしかして」と声がかけられた。
顔をあげると私の折ったものを興味深そうに眺めながら私の手元を見て少し嬉しそうな顔をしている。
「なに、オレとお揃いが良かったの?」
イルミはなんだか嬉しそうで少し反応が遅れたけれど、決してそういう訳ではない。
「そ、そんな訳ないでしょ!金色でぱっと出てくるものがなかったから折ってみただけであってお揃いがよかったとかじゃない!」
「まあまあそんなにムキにならないでよ。これ触ってみてもいい?」
イルミは私の折ったものが気になるようだ。
別に断る理由もないのでいいよと許可すると、くす玉を持ち上げてこの立体で大きいのどうやって作ったの?と不思議そうに聞いてきた。
「これはね、同じパーツをいくつか作って組み立てるんだよ」
そう説明しながら立方体を作ってイルミの目の前に置いた。
「へぇ、すごい。面白いね」
「よく紙でこんなもの作ろうって思ったよね。あっ」
私が小さい頃に1番作ったものがまだ残ってるじゃないか。
桃色の折り紙を取り出して手際よく折っていくとあっという間にその形になった。
「みてみて、ハートだよ」
はい、とイルミの手のひらに載せると「これ貰ってもいい?」と聞いてきた。
「別に構わないよ。どうせこれ全部捨てるし」
こんなもの取っておいてもしかたない。
しかし捨ててしまうのも勿体無いような気がするから欲しい人に貰ってもらえれば1番幸せだと思う。
「ねぇ、これも折り紙?」
イルミが指さすのは新聞紙で作った紙鉄砲。
これは折り紙と言っていいのだろうか?
折って作ったから折り紙でいいのか。
「これはね、こう使うの」
すっ、と手を上にあげると一気に振り下ろし、新聞紙はぱん、と大きな音をたてた。
「これは紙鉄砲って言」
「ココナ!何かあったのか!」
ばん!と次は扉が大きな音を立てて開いたかと思うとクロロが血相を変えて部屋に飛び込んで来た。
突然の出来事に驚いてフリーズしているといち早く状況を理解したイルミがウケるとゲラゲラ笑い出す。
そうだった私のホームセキュリティは過保護なくらいばっちりだった。
状況を読み込めていないクロロは私に怪我の有無を確認してきて我に返る。
「あ、ああ、クロロいらっしゃい?」
「これはどういう状況だ?」
はははは、と下手くそな笑い方をするイルミは怖い。
しかし一番可哀想なのはクロロだろう。
私の家から大きな音がしたから少なくとも心配して駆けつけてくれたのにそこには爆笑しているイルミがいるのだから。
「いや、なんか駆けつけて貰ってきた悪いんだけど音の原因これなんだよね」
私の右手に握られている新聞紙を見せるとさらに変な顔をされた。
「今イルミに説明してたんだけどこれは紙鉄砲って言って大きな音がなるおもちゃなんだよね」
また少し折り直して先程と同じようにぱん、と音を鳴らしてみせた。
「お前…紛らわしいことをするな。今までお前の家からこんな大きな音がしたことないから驚いただろ」
「あ、うん、ごめん」
「クロロココナのこと大好きだもんね。オレの方が好きだけど」
「オレの方がココナの事を想っている」
「はいはい、そこで変な張合いしないでね」
「オレはココナにハート貰ったもん」とクロロに折り紙を自慢していたのでクロロにも同じものを作ってあげたところどちらの方が心がこもってるかで言い合いをし始めた。
ふたりとも成人男性のはずなのに小学生を見ている気分だ。
「はいはいはい、もうやめてください見苦しい」
口を開けば残念さが際立つから、ほんと喋らなかったらいいのに。
言い合いをやめたクロロは机の上に置いてある折り紙が気になるようで触っても大丈夫だよ。と許可を出すとくす玉を手に取った。
やはり立体物は気になるらしい。
勝手に触ればいいのに許可を取るところは紳士だなあと思う。
だからこそこいつらはもう少し自分の中の小学生を飼い慣らすべきなんだけどね。
「ココナ。これオレにも作れるか?」
「こんなの誰でも作れるよ。作ってみる?」
どうせなら違う種類のくす玉の方が楽しいだろう。
「ねぇ、折角3人いるんだからさ、1人で作るのが大変なの作りたいんだけどいいかな?ちょっと大変だけど」
「仕事も終わったしオレは構わないよ」
「それだけすごいものができると期待していいんだな?」
ふたりはなんだか楽しそうだ。
これから外見だけは整っている成人男性2人とひたすら折り紙を折るのか…なんて傍から見たらシュールな光景になることを提案した私は500枚入の折り紙から緑、黄緑、橙の三種類の折り紙をそれぞれ10枚ずつ取り出した。