非日常のとビら

□19日目 花見
1ページ/3ページ




「…ぃ…きろ……ぉ……おい、ココナ。起きろって」


ゆっさゆっさと体を揺さぶられて目を瞑りながらもとりあえず「起きてる」と返す。

せっかくの休日なのだから自然に目が覚めるまで寝かせて置いてほしい。
布団をかぶり直すとふぅ、と深くため息をつく。

昨日は朝まで乙女ゲームをしていたのだ。
朝の4時になんとなく乙女ゲームを始めたところ1人のシナリオを攻略するのに4時間かかった。
つまり私は先程眠ったばかりだ。

せめて午後1時くらいまで寝てたい。


「ココナもう昼だぞ。今日くらい午前中に起きたらどうだ」

「やだ。私朝までラブハンターしてたの」

「乙女ゲームは変な時間に始めたらそうなることくらいわかってただろ」


私はずっと話しかけてくるクロロをガン無視して睡魔に身を委ねる。

するとぎしり、とベッドのスプリングが軋む音がしてベッドが沈んだ。

クロロは私に覆いかぶさり私の上に影を落とす。
クロロの髪の先が頬にかかってくすぐったい。
息がかかる距離まで顔が近づけられていることがわかった。


「昼間から眠っている女の子を襲うだなんてクロロもお盛んだね」


そんな声によってクロロは私から離れる。
正確にはクロロの顔面が離れただけで、こいつはまだ人のベッドの上で膝立ちしている。


「お前は御伽噺を知らないのか?姫は愛する者のキスで目覚めるものだ」

「え、クロロ、まさかココナに好かれてると思ってるの?何それすごい図々しくない?そんな男モテないよ」


うるさい奴が増えた。
この落ち着いた声と言動はイルミだ。
彼のツッコミどころ満載の発言はクロロにスルーされていた。


「オレココナにかまってもらおうと思ったけどやっぱり寝てたかあ。無理に起こすのも可哀想だし今日は帰るよ」


嫌に紳士的な態度をとるイルミを少し不審に思いながらも閉まる扉の音を静かに聞いていた。

帰るのは全然問題ないんだけど、この状況をどうにかして欲しかった。
いつもはどけなよ、とかちょっと嫉妬した素振りを見せるくせに今日はなんだかドライだった。
それくらいがちょうどいいから助かるけれど、今日こそ助けてくれるべき日だろうに。


「なぁ、こっちには花見という文化があるんだろ?天気もいいしデートがてらココナと散歩しようと思ってたんだ」


目を閉じている私など気にもせずに此奴は話し続ける。
それにしてももうそんな季節が巡ってきたのかなんてぼんやり思った。
確かに陽射しはぽかぽかと暖かいものになった気はするけれどまだ寒さは残っているし、通学路に桜の木がないからすっかり忘れていたけれどもう桜が咲いている季節みたいだ。
私はほとんど見ないけれど、テレビでニュースを熱心に見ているクロロは桜情報をちゃんと仕入れていたのだろう。

日本人なのだからもちろん桜は好きだ。
季節的に満開なのだろうと思う。
そうだよな、私が外国人観光客だったら絶対見たがってる。

仕方がない。今日はこいつにつきあってやろうじゃないか。

布団から手を出して両腕をクロロの方に伸ばすとぐっと引っ張ってもらい上体を起こす。

くそ眠いのにつきあってあげる私超やさしい。

でもやっぱり眠いものは眠いので、そのままクロロの首に手を回してもたれかかる。

今日のクロロの服の生地最高に触り心地がいい…


すりすりと頬を摺り寄せていると、クロロに密着しているからかとくとくといつもより少しだけ駆け足な彼の鼓動を感じた。


「ココナ、ここが何処かわかってるのか?ベッドの上だぞ」

「知ってる…眠る場所だから別にいいでしょ」


クロロだって一応大人の男性だから私のようなちんちくりんに発情することはないだろうし、どうせこれだって私をからかっているだけだ。

それに彼らは無理やりしてくるような人ではないから、そこだけは信頼している。


「オレの気持ちをわかっていてそんなことをするなんてお前は卑怯な女だな」

「クロロも私のこと大好きだもんね。私も好きだよ。構ってくれるいい友達だもん」


構ってくれる人は基本好きだからヒソカだってイルミだってフェイタンだって大好きだ。

この友達はみんな犯罪者だけど。


「お前は残酷な奴だな」

「ほらほら、そんなに起きてほしいなら抱っこ。洗面所まで連れてってよ」


歩くこと自体がもうだるい。
クロロになら抱っこされてもなんとも思わないし、連れて行ってくれるならなんでもいい。

首に回していた手に少しだけ力を入れるとすっと身体が持ち上げられた。


「すごい心地いい揺れだ…眠れるよこれ」

「お前それじゃあ赤ん坊と一緒だぞ」

「眠れるならこの際何でもいいよ。クロロままだいしゅき〜」


首に回した手に少し力を入れて抱きしめてみると、抱きつくものがあると眠れてしまう私の睡眠を助長する形となる。


「せめて性別だけはちゃんとして欲しかったな。あとその体勢はだめだ。お前そのまま寝るだろ」


ほら、ついたぞ。と地面に足を降ろされ、クロロに手伝って貰いながらお出かけの準備をした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ