非日常のとビら

□23日目 ネガティブな日
1ページ/2ページ



雨が降る中私は一人バス停にポツンと一人立っていた。
私はいつもバスを利用するときは到着する時刻の15分前には立っている。
今日も例にもれなくそうしていたはずなのに。


「今日は学校いくのやめた」


すごく些細なことのはずなのに何だか涙が出てきた。
今日のメンタルはゴミみたいだ。
こんな外で泣くのはみっともない。とりあえず家に戻ろう。

私の身に何が起こったのかというと学校に行くために使おうとしていたバスに置いて行かれた。
それも1日に一本しかないやつにだ。
これに置いて行かれるともう1時間半の道のりを歩いていくしかなくなってしまう。
いつもは自転車で通学しているけれど雨ならばもうバスを使うしかない。

電車で行こうにも学校は変な所に建っていて電車で行くと遠回りになってしまう。
そのためいつも雨の降った日はバスを使っていた。
バスに置いて行かれたのはこれで2回目だ。
私にとって1番楽な通学方法を奪い取られたのだ。
今回は苦情入れてやる。

2限目からなら電車で行くけれどもうそんな気力も吸い取られていた。

雨ってだけで気持ちが何となく沈むのに朝から気分は最悪だ。

風が少し強いせいで傘をさしていたのにも関わらず頭以外はびしょ濡れだ。

家に入った瞬間ぽろぽろと涙が出てきた。
私はそんなに真面目なわけじゃないのにどうしてこんなことで泣いているんだろう。
こんな些細な事で病んでいる自分がみっともなく感じてしまってまた涙が溢れ出てくる。
こんなところにいたら泣いているところを見られてしまう。
とりあえずどこかに行こう。
自室にいると泣いていることがばれてしまうから落ち着くまで物置の隅にでもいよう。
あいつらに見られたら何か言われる。
気ままな一人暮らしのはずだったのにどうして私はこんなことまで気にしなくちゃいけないんだ。

服の水気を絞ってから靴を脱いで、びしょ濡れの服も変えずにそのまま物置へと向かう。

少し埃っぽい物置の隅っこで小さくうずくまってぐすぐすと泣いている私はどうしようもないくらい滑稽で、それがまた悲しくなる。

自分より大変な思いをしている人がたくさんいることはわかってる。
こんな些細なことで病める自分が恵まれていることもわかっている。

私は学校に通うことができて、住む家があって、食べるものに困っていなくて、身を置いている場所は衛生的、飲み水にも困らなくて、私のことを大切に思ってくれている両親と友人と呼べる存在がいる。

自分にとっての当たり前が誰かにとって贅沢だと言うことも、私の冷静な部分はわかってる。

でも、私の中の感情的な部分はそうではないみたいで、自分の中の悲しみは誰かと比べるものじゃないと声をあげている。

確かにそうだ。
誰かがもっと悲しい気持ちだと比べられてもちっとも慰めになんてならない。
むしろだからなんだって話だ。
私の悲しみはちっぽけなものだとしても私はそう感じているのだからそんなこと言われたってこまる。

ぐすぐすと声を押し殺して泣いていると、物置の扉が小さく開いて光が差し込んできた。


「お前こんなとこで何してるか?学校はどうしたね」


少し困ったような表情で私と同じ目線になるようにフェイタンはしゃがんでバスタオルをかけてくれた。

今優しくされたらやばい。


「いや、傘をさしたのに服もバッグもびしょ濡れになっちゃったからさ、えっと、バッグ、の、変えがここにあるから探してたの」


相変わらず下手くそな嘘だ。
こんなの嘘だってすぐにバレちゃうじゃないか。
もっと女優だったらよかったのに。

すると彼は、はぁ、とため息をついてから「服が濡れたままだと風邪ひくね。ささと拭くよ」とバスタオルで頭をわしゃわしゃと拭いてくれた。


「お前死人か?クソ冷たいよ」

「からだ、冷えちゃったのかもね。ありがとうフェイタン。もう大丈夫だよ」


へらっと笑いかけると彼は少し眉を下げたが何も詮索してこなかった。

何も聞いてこない彼の行為に安心を感じている私と少しの寂しさを感じている私がいる。
なんて自分勝手なのだろう。

またじわりと零れてきそうな涙をバスタオルで拭って立ち上がり、部屋を出ようとすると、ぎゅ、とフェイタンに抱きしめられた。


「無理して笑うのやめるね」


少し寂しそうな、フェイタンの声が聞こえる。


「何があたかは聞かないね。でも泣きたいの我慢するのはやめるよ」


フェイタンの体温がじんわりと私に伝わってくる。


「フェイタンが濡れちゃうよ」


口ではそう言っているくせに私の手はちゃっかりフェイタンの服を掴んでいた。
これはメンタルがゴミの状態なのに優しくしてきたフェイタンが悪い。

よく考えなくてもフェイタンがここに入ってきた時にバスタオルを持ってきていたのだからなんとなく状況の把握はされていたのだと思う。


「ココナはギリギリまで我慢するから限界になただけよ。限界になるまで我慢するのココナの悪い癖ね」


私をなだめるように背中をぽんぽんしてくれるフェイタンの胸にぐりぐりとおでこを擦り付ける。
こうすればもっと人の温もりを感じられる気がした。
フェイタンからはなんだか優しい匂いがして、とくとくと聞こえる心音が私の心を安心させた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ