非日常のとビら
□30日目 軽率な行動
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「あっつい…溶けそう…」
湿度の高い日本の夏は嫌になる。
とはいえ夏も終わりかけ。夏休みだってもう終わっている。
エアコンは電気代が気になるからなるべく使いたくない。
これはもしかしたらあいつらの世界の方が湿度のないタイプの暑さかもしれない。
太陽の熱を集めないようにノースリーブの白いブラウス、足にまとわりつかないような淡いピンクのスカート、そして厚底のサンダルを身につけると異世界の扉に手をかけた。
1本踏み出すとひゅう、と心地よい風が吹いた。
こっちの方が過ごしやすいみたいだ。私の読みは当たっていた。
確かに気温は高い。しかしじめじめとはしていないためこちらの方が圧倒的に良かった。
クロロのところに一応顔を出しに行こう。
最近はぱったりと誰も来なくなったけれど、こっちの世界のことがきっと忙しいのだろう。
もしかしたらクロロは居ないかもしれないけれど、来たからには挨拶するのが礼儀だ。
いるなら報告をする。そこのところはちゃんとしている。
いつもの場所が近付いて来たけれど今日はなんだか静かだ。
ひょこっと顔だけ出して中を覗いて見ると誰もいなかった。
今日は大きな仕事があるのかもしれない。
私に危害がなければなんでもいい。
クロロたちがいなくても涼めるのだから困らない。
せっかくだから少しだけここ周辺を散歩してみたくなったけれど大丈夫だろうか。
この世界の治安は死ぬほどやばいらしい。
でもクロロたちがここを拠点にするということは人があまり来ないからかもしれない。
そもそもあの扉のある場所は旅団の人間以外はほとんど来ることがないと言っていたのだから大丈夫だろう。
この辺りは廃墟が多い。
人工物が自然に溶け込んでいるのを見るのが好きなのもあって前々からここの辺りを探索してみたかったのだ。
別に持ってくる必要もなかったであろうバッグからスマホを取り出すと、別に盗まれて困るものは入っていないためバッグはここに置いていくことにした。
これでもしも迷子になったとしても私のバッグがあれば来たことを伝えられるから探してくれるだろうというなんとも他人任せな考えだけど、私の世界で行方不明になったのかこっちの世界で行方不明になったのかわからなくなるよりはいいだろう。
スマホの充電は100%、日焼け止めはしっかり塗った。
よし、ばっちりだ。
少しだけ緊張しているけれどたぶん大丈夫だと自分を安心させて周辺を歩き始める。
この辺りはビルなどの少し高い廃墟が多い。
旅団の拠点を出てすぐの所にある建物はどうやら風通しが悪いようで、少し中に入るとサウナみたいな状態になっていた。
それより少し奥に進んでいくと風が通り、少し欠けたコンクリートから差し込む光がとても幻想的な廃墟もあり私のテンションは上がっていく。
こういうところで綺麗なドレスとかを着て撮影したら、すごくいい写真が撮れそうだ。
アンバランスさがまた良さを引き出してくれるだろう。
コツコツと私の足音だけが反響する廃墟の中は私の好みが詰まっていた。
時間も忘れて廃墟探索をしているとかなり時間が経ってしまっていたようだ。
それに無心で進んでいたから気づかなかったけれどかなり遠くまで来てしまった。
2時間くらいまっすぐ歩いて来たから何キロという単位で歩いてしまっただろう。
そろそろ戻らなければ。
夕方になって日が傾いたオレンジ色の廃墟も撮影したかったけれど、それは誰かに付いてきてもらおう。日が落ちてしまえば街灯もないこの辺りは真っ暗になってしまうからそれは困る。
万が一迷子になっていても怖いしそろそろ潮時だろう。
最初から冒険しすぎた。
最後に1枚、写真を撮ろうとスマホで無音カメラを立ち上げ、好きなアングルを探す。
いざ撮ろうと思った時に間違えてインカメを押してしまい、急いで戻そうとした時、一瞬何かが写ったかと頭が認識するや否や私の視界は真っ暗になった。