非日常のとビら
□22日目 七夕
1ページ/2ページ
ガサガサと自分の背丈より大きな笹を片手に持ちながら家に帰る。
いつもならこんなに大きな笹なんて買ったりしないで、プラスチックの小さな笹を飾っているけれど、どうせあいつらが来るし、せっかくだからこの世界の文化を見せてやるためにこれくらいしてやってもいいだろう。
私の街は素敵な風習がある。
七夕の夜に街を歩き回り、笹を飾っているお家や街灯がつけられているお家を訪ねて歌を歌うとお菓子が貰えるのだ。
小学生の頃は七夕は一大イベントでとても楽しみにしていたのを思い出す。
家によっては文房具を配っているところや、大きな袋菓子を配っている所もあって友達とどれくらい貰えるか勝負したっけ。
小さい頃にこの風習に楽しませて貰ったから私もこの素敵な風習に恩返しがしたい。
だから私は中学生になってから七夕の日にはお菓子を配っている。
私は大きい物を配った方が配った気になるので少し大きめの駄菓子と10円で帰るスティックタイプのスナック菓子を用意した。120セットあれば十分だろう。
家に着くと1度笹を玄関前に立てかけて家の鍵を開ける。
玄関に買ってきた物を置くとまた外に出て用意していた2Lのペットボトルの中に水を入れて笹を刺し、正門前に固定した。
それと…短冊を作って何かお願い事を書かなければ。
小さい頃は沢山お願い事を思いついたけれど、今は特に思い浮かばない。つまらない年の取り方をしたものだ。
笹飾りも引っ張り出して飾ってやろう。
今回はせっかくだからといつもの笹飾りではなく、新しい笹飾りを買ってきた。
私は立体系の笹飾りが好きだから何個か買って、あとはキラキラした笹飾りもいくつか買ってみた。
立体の笹飾りを組み立ててて笹に引っ掛けて風で飛んでいかないように園芸用ワイヤーで固定する。次の飾りを手に取ると玄関の扉が開いた。
「やあ♦何してるの?」
「ヒソカいらっしゃい。今はね七夕の準備をしてたの。私の世界には7月7日に…」
「おい、待て。オレにも聞かせろ」
どこからか湧いてきたクロロが私の話を遮る。
クロロが1番興味を示すと思ったからここまでちゃんとやってあげたのだ。こいつに説明しなきゃ始まらないし、こいつらはそもそも神出鬼没だ。私はこれと言って別に驚きはしない。
私は手を動かしながら七夕の文化について話した後にこの街の文化についてを話した。
「日本版ハロウィンみたいな感じだね♣」
「笹はクリスマスツリーか?」
「まぁそっちの方が有名ではある感じする。実際私も小さい頃はハロウィンも有れば年に2回お菓子もらえるのにって思ってたもん」
しかしそう言われると一気に風情がなくなってしまう。
七夕は一応もっとロマンチックである日なのだ。
「簡単に言うと今日は織姫と彦星が天の川を通って会うことができる特別な日なんだよ。星の架け橋ってなかなかロマンチックで素敵じゃない?」
「オレ1年に1回しかココナに会えなかったらさみしくて死んじゃう」
そんな声が聞こえたかと思うと肩に負荷がかかった。
この絡み方は確実にイルミだ。
「そんなことミリも思ってないだろ!重いから避けて!」
「オレがココナのこと大好きだって知ってるくせに」
あー、はいはい。と受け流すとひとつ問題に気がついた。
先に立てかけて固定してしまったせいで高いところが届かない。
「ちょうど良かった高身長共手伝え」
身長が私よりも高い奴らがここにいる。
こいつらに頼むのが1番手っ取り早い。
「私上の方微妙に届かないからバランスいい感じになるように飾り付けてよ」
笹飾りを渡すとでかくてそこそこごつい男共がちまちま作業するものだからなんだかおかしくなってくる。
でも頼み事を聞いてくれてるのだからここで笑ったりしたら確実に殺される。
でも奴らは裏社会を生きる者。
私の考えなんてすぐに見通される。
「ココナ楽しそうだが何がそんなに楽しいんだ?」
「いや、ごめんなんかすごい絵面だなって思ってちょっと面白くなっちゃった」
「ココナも混ざりたいんだね❤わかったよ♠」
ヒソカがそういうや否や私の脇に手を差し込むとひょいと持ち上げられた。
このムキムキ男に逆らえるほど私は屈強ではない。
「うぎゃー!!!離して!!」
「はい、ココナ。なんかよくわかんないやつだよ。上手に飾れるかな?」
「ちょっとイルミ園児扱いやめろ!!ちょっと下ろして!」
「もう少し静かにできないのか?うるさい子はめっだぞ」
こいつらの人を煽る能力は1級だ。めちゃくちゃ腹立つ。
イルミがよくわかんないやつと言って渡してきたのは私が幼稚園の時に作ったお星様の工作だ。
めちゃくちゃ腹立つ。
クロロの幼児語もめちゃくちゃ腹立つ。いやこいつは常にムカつく。
しかしこいつらに安易に殺すぞとか言ったあかつきには私が死ぬ。
まだ私は世界とさよならしたくない。
「ちょっと!せめて違う飾りにして!笑ってごめん。もうこれくらいでいいからほんと。短冊書こう短冊」
お願い事をこのでかい男どもが書くのもなかなか面白い絵だけれど、そんなこと言ったらどんな目に会うか分からないからそっと私の胸の内にしまっておいた。