非日常のとビら
□26日目 記憶
1ページ/2ページ
「だーめ、そっち見ないで。私の方だけ見てて」
「そのセリフ、ボクにも言ってよ♦」
「嫌です」
ぶーんと言いながら首を振り続ける扇風機を両手でロックしながら、めんどくさい絡みをしてくるヒソカを一蹴する。
エアコンと扇風機ダブル使いは最高に快適だ。ここでアイスでも食べられたらもっと最高なのだけれど、このクソ扇風機ぶっ壊れやがって永遠に首を振り続ける機械となっている。
扇風機の首を固定できないため、仕方なく腕でロックしているのだ。
ばっさり断ったところでヒソカが気にするわけもなく、じゃあボクが言ってアゲル♥と聞こえたと思えば両手を頬に添えられる。
「扇風機の方ばかり見てないでボクのことだけ見ててよ♠ココナの瞳にボク以外を写して欲しくない♦」
ちゅ、と額にキスを落として私から離れていく。
恥ずかしげもなくよくそんなことができるなぁなんて思いながらまた扇風機を自分の方に向かせた。
ぶぉぉぉ、と風があたって気持ちいい。
あ゙〜〜〜と扇風機にむかって声をだしながら下を向くと、てこてことワラジムシが歩いていた。
「うわっ!!!」
すぐに飛び退いて扇風機から離れる。びっくりした。大きな声を出してしまったけど、黒光りするヤツよりは全然怖くない。
「ココナ大丈夫かい?」
「不意打ちでびっくりしただけ。これくらいなら私でも外に逃せるよ」
ひょいとワラジムシを拾いあげて窓を開けると外に投げ込む。
ダンゴムシはなんとなく怖いとは思わないのに、ワラジムシを気持ち悪いと思ってしまうのはなぜなのだろうか。
ダンゴムシの方が若干光を反射するから黒光りするのに。
まぁいい、もう入ってくるなよ。
ぱんぱんと手をはたくと、窓を閉める。するとひらりと大きな蛾が部屋に入ってきた。
「うぎゃぁぁぁあ!!!!蛾はむり!!!!ヒソカ!!ヒソカ!!」
ヒソカに飛び込むとべしべしと叩いて対処しろと訴える。
そして急いで部屋から出た。
あれは、あれは私には無理だ。
家への侵入を許してしまったのは羽を広げたら10cmほどになりそうな蛾だ。
そもそも私蛾ってだけでほんとにダメなのに。
小さい頃は蝶々と混同して捕まえていた覚えはある。
しかし奴らが虫かごや窓に張りついて出ていかないのを見てから私はそれがトラウマになってしまった。
蜘蛛とかは気持ち悪くても蛾やほかの虫を食べてくれるからそこまで嫌いじゃない。
蛾はただただ気持ち悪いだけなのにどうして生息しているんだろう。なんで生きてるの?
いや、別に生きててもいいから二度と私の前に現れないでほしい。
家の外にいても怖いのに家の中に入ってくるだなんて本当にヒソカがいて良かった。
私が何かした訳でもないのに心臓がどくどくと脈打っている。
「ココナ、これどうしたらいいんだい?逃がす?コロス?」
「なんでもいい!!トイレに流すでも逃がすでも殺すでも私の目の届かないところにいくならなんでもいい!!ただゴミ箱に捨てないで!私が処理できなくなるから!!」
虫を見た時って変に冷静になるのはよくあることだと思う。ゴミ処理のことまで考えているとは我ながらさすがだと思った。
ヒソカが処理をしてくれたみたいで、部屋の中からもう大丈夫だと言われ恐る恐る部屋に入ると、「ココナが嫌がるだろうから♦」と言ってわざわざ手を洗いに行ってくれた。
手を使って退治しているとも思えないけれど、確かに何となく嫌だ。
ちゃんとそこまで考えてくれるのはほんとに優しいと思う。
虫を対処してくれた人はみんなかっこよく見えちゃうところがある。
ちょろすぎやしないか私。
手を洗って戻ってきたヒソカに、ヒソカのおかげで私の生活は守られたよ、と感謝の気持ちを伝えると、ワラジムシはどこから入ってきたんだろうと侵入経路がわからないため不安になった。
まぁ何かあればクロロのところに逃げ込めばいいだろう。
「ところでさっきのボクの言葉を無視なんて悪いコだなぁ♣」
「えっ、ごめん何かいってたっけ?」
私は何か聞き逃しただろうか。敵がいなくなった安心感で耳に入っていなかったのかもしれない。
「ボクのことだけ見ていて欲しいって言っただろう?返事は?」
「あー、そんなこと言ってたね。虫で全部ぶっ飛んだし、そもそもそれ返す必要あったやつなんだ」
まぁこれもヒソカのお遊びなのだろう。
乗ってやろうと少し考えてみる。